Chie Tsukada塚田 千恵

量子工学専攻 博士課程(後期課程)3年
  • 1988年生まれ
  • 2012年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2012年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2013年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用

水環境下における L-システインと金ナノ粒子の分子吸着反応に関する研究

金ナノ粒子(Au NPs)は医療分野でガンの温熱療法などへの応用に期待されている。しかしながらNPs は生体分子に対する吸着反応活性が高いため、生体への安全性が懸念される。さらに、Au NPs の主な作製手法の溶液還元法では分散剤や還元剤が用いられるが、これら試薬にも生体に害を及ぼす物質が使用される場合がある。したがって私はそれら試薬を使用せずにAu NPs コロイド水溶液の作製が可能な「液中プラズマ法」に注目した。この手法は共同研究者のあいち産業科学技術総合センターの行木啓記博士らによって開発され、作製原料は「Au ロッド」「蒸留水」「NaCl」のみである。また、生体の約70% は水で構成されておりNaClも生体内に含まれる物質であるため、このAu NPs コロイド水溶液中に生体分子を加えて吸着反応を促し、かつ分光学的及び構造学的手法を用いることで、in-vitro 条件(生体内を模した環境)で、NPs 表面の吸着種やNPs の粒径変化を解明できると考えた。対象の生体分子は、金属との吸着反応活性が高いチオール基(-SH)を持つアミノ酸の「L- システイン」を選んだ。また、今回は硫黄(S)の化学状態変化に注目し、シンクロトロン光を用いたS-K 吸収端近傍X 線吸収微細構造(NEXAFS)測定を行った。通常、上記測定に用いる軟X 線は大気中で減弱されるために真空中での測定が必須であるが、Heガスで満たされた 1気圧のチャンバ内では S-K吸収端領域の軟 X線が 100%近く透過できるようになるため、水を保持した状態での測定が可能になる。

AuNPsコロイド水溶液にシステイン粉末を加えると溶液の色はすぐに赤から紺に変化し、さらに時間が経過すると NPsは互いに凝集して沈殿した(図1(a) 。原子間力顕微鏡観察より、AuNPsの平均粒径は吸着反応前で 2.4nmであったが、4分間の反応後は 3.0nmへ肥大化していた(図1(b)及び(c))。また、NEXAFS測定より、システインは -SHで AuNPs表面に吸着した後、システインチオレート、原子状硫黄、そしてシスチンの吸着種で存在することが明らかとなった。以上の結果から、NPsの凝集は吸着種のカルボキシル基やアミノ基で水素結合したために生じたと考えられる(図2)。本研究を発展させることで、生体適合性を示す創薬の開発にもつながると考えている。

図1 吸着反応前後の (a)Au NPsコロイド水溶液,(b)原子間力顕微鏡像, (c)粒径分布.

図2 システイン吸着種同士の水素結合の模式図.

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