Taguchi Katsuhisa田口 勝久

マテリアル理工学専攻 博士研究員
  • 1983年生まれ
  • 2010年3月 首都大学東京理工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2010年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)採用
  • 2013年3月 首都大学東京理工学研究科 博士課程(後期課程)修了
  • 2013年4月 日本学術振興会 特別研究員(PD)

ディラック電子特有の流れ— 軸性流 — の生成と検出の理論研究

ディラック電子の物理は、原子核や素粒子物理の分野で興味深く研究されてきましたが、近年ではディラック電子系が実現する物質の探索・発見により、物性物理でも関心を集めています。最近の研究によってディラック電子特有の物性現象が多く報告されています。その中で、私たちはディラック電子が持つ自由度(電荷・スピン・ヘリシティー)に起因したディラック電子特有の流れ— 軸性流— の輸送特性に注目しています(図1)。その理由は、軸性流が3つの特徴的な性質(1)無散逸性、(2)スピンと運動量の結合、(3)量子異常を持ち、これらの性質が将来的にはディラック電子の性質に基づいたエネルギー損失の少ない新奇なエレクトロニクスへの応用が期待できるためです。

物性物理における軸性流に研究では、その生成方法だけでなく検出方法も合わせて議論する必要があります。原子核物理では、30年以上前から軸性流の生成方法の理論的研究が行われています。理論的にはディラック電子系に磁場を印加することによって軸性流が誘起されるはずですが、これまで軸性流の明瞭な観測はありませんでした。

私たちは、軸性流の新しい生成方法とその検出の理論的提案をするために研究を始めました。今回は図2のようなディラック電子系が実現しているディラック・ワイル半金属と磁性絶縁体が接合した系で、解析しました。その結果、図2の磁性絶縁体の磁化(S)の動的な運動 (スピンポンピング)によって、軸性流が誘起されることが分かりました。生成した軸性流の存在は、強磁性共鳴現象を介して検出できます(図3a)。その原理はまず、スピンポンピングで誘起された軸性流はスピンと運動量の結合を通して、磁化の動的運動を妨げます。その妨げる効果は、強磁性共鳴現象下において図2の磁性絶縁体接合系における磁気感受率の半値幅に反映されます。その半値幅を元々の磁性絶縁体の半値幅と比較することで軸性流の有無が判断できるというものです。他にも、生成した軸性流を電流に変換して検出する方法(図3b)もあります。現在はさらなる軸性流に関する物理の発展のため、新たな軸性流生成・検出方法の提案を目指して研究しています。

図1 ディラック電子のヘリシティー自由度を運ぶ流れの差 — 軸性流 — の概念図。赤と青はディラック電子のヘリシティー自由度の違いを表している。

図2 ディラック半金属(DS)と磁性絶縁体(MI)の接合。磁性体の磁化(S)の動的運動によって軸性流が誘起される。

図3 (a)強磁性共鳴、(b)非局所効果を介した軸性流検出の概念図。

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