Daisuke Ichihara市原 大輔

工学研究科航空宇宙工学専攻 博士後期課程2年
  • 1987年生まれ
  • 2013年 3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2014年10月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2016年 4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
  • (2013年4月 - 2014年3月 日本電気株式会社)
  • (2014年4月 - 2014年9月 名古屋大学 技術補佐員)

独自の磁場・電場配位で電気推進機の高性能化を目指す

 宇宙空間をA地点からB地点まで動力航行する場合、必要な推進剤総量はTsiolkovskiの式と呼ばれる運動方程式で見積もることができます。この式において最も重要なパラメータが排気速度です。いま、A地点を地球、B地点を火星とし、地球から火星まで500kgの探査機を運ぶミッションを考えてみます。地上からの打ち上げに使用するような化学ロケットの場合、一般的に排気速度は5.0km/s程度ですので、火星到達には860kgの推進剤が必要になります。一方、排気速度50km/sの電気推進機ならばわずか50kgで済みます。高い排気速度により低燃費運用を可能とする電機推進機開発にむけ、世界各国がしのぎを削っています。

 本研究では、Helicon Electrostatic Thruster、通称HEST(図1)を対象に実験をベースとした推進機開発を実施しています。HESTはHelicon波放電を活用したプラズマ生成部と、生成したイオンをCoulomb力によって静電加速する加速部とからなる二段式静電加速機です。プラズマ生成部出口に設置したリング型陽極とスラスター下流部に設置した陰極との間にカスプ磁場を印加しています。陰極から放出された電子は磁力線に沿って拡散するためスラスター中心軸上は陰極電位に保たれます。その結果リング型陽極内面からスラスター中心軸に向かって加速電圧相当の電位差が生じ、これによりイオンを静電加速することができます(図2)。このような電場・磁場配位は名古屋大学独自のものであり、学会でも大きな注目を集めています。

 電気推進機の性能を評価する上で重要な指標の1つが推力効率です。これは投入電力に対する運動エネルギーの比として定義され、この数値が高いほど効率的に電気-運動エネルギー変換を行うことができます。Helicon波放電に投入する電力と推力効率との関係を調査した結果、ある推進剤流量に対して最適電力が存在することが明らかとなりました。推進剤流量が少ない作動であってもHelicon波放電により電離が促進するため排気速度、ひいては推力効率向上につながっています。一方で、推進剤流量が多い場合、Helicon波放電を実施せずとも加速部の構成を一部変更するだけで良好なイオン加速を達成しました。これにより必要な総電力が大幅に減少することから、電力制限がより厳しい宇宙ミッションへの適用が期待できます。今後は加速部内でのイオン加速メカニズムを調査する予定です。プラズマ物理に立脚した加速モデル構築を通じてこれまでの実験結果を整理すると共に、エネルギー損失過程を把握することで更なる高性能化を目指しています。

図1 Helicon Electrostatic Thruster

図2 加速されたHeliconプラズマ

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