Ito Satoru伊藤 覚

化学・生物工学専攻 博士研究員
  • 1989年生まれ
  • 2013年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2013年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2016年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)修了
  • 2015年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
  • 2016年4月 日本学術振興会 特別研究員(PD)

世界最大のねじれを目指して: ねじれたポルフィリン多量体の合成

π共役化合物は光吸収特性や電気伝導性に優れており、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機ELなどに利用される有機分子です。フラーレンやカーボンナノチューブは曲面構造をもつπ共役化合物であり、分子エレクトロニクスの分野で注目が集まっています。しかし、π共役化合物では平面構造が安定であり、大きなひずみをもつ曲面構造を構築するのは非常に困難です。

そこで、我々は曲面π共役化合物を構築する新たな手法の開発に着手しました。そして、立体的にかさ高い部分(置換基)をもつπ共役分子を連結する新しい酸化反応を発見し、これを用いて大きなねじれをもつπ共役化合物を簡便に合成する方法の開発に成功しました。分子を連結する反応はこれまでにも多数開発されていますが、反応部位の近くが混み合っていると反応の効率が極度に低下するものがほとんどでした。一方、開発した新反応は立体障害があるにもかかわらず高効率で進行します。そのため、本研究の手法は「ねじれたπ共役分子の骨格伸張」に有用であり、三次元構造をもつπ共役系の構築に端緒を開くものです。

具体的にはアミノ基をもつポルフィリンをトリフルオロ酢酸の存在下DDQと呼ばれる酸化剤で酸化すると、効率よく二分子のポルフィリンが結合し、隣接するアリール基どうしの立体反発により、極度にねじれたπ共役化合物が生成することを明らかにしました(図1)。そして、ねじれの大きさが異なるいくつかの化合物を合成し、その性質を比較しました。その結果、ねじれの大きさによって光吸収波長や電子的性質が変化することを突き止めました。さらに、同様の反応を繰り返して四分子のポルフィリンを連結し、世界最大のねじれをもったπ共役分子を合成することに成功しました(図2)。

このように、本研究は曲面π共役系化合物の化学の発展に寄与する基礎化学的に重要なものであると考えています。さらに今後、充分な長さを有するねじれたπ共役多量体が合成できれば、ねじれの大きさの変化によって光吸収波長や電荷の移動のしやすさなどをコントロールできるナノスケールの分子電線や分子バネの創成が期待できます。

図1 酸化的縮環反応を用いたねじれたポルフィリン多量体の合成スキーム

図2 世界最大のねじれをもつポルフィリン4量体の結晶構造

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