Yamashita Kenji 山下 賢二

化学・生物工学専攻 博士後期課程修了
  • 1988年生まれ
  • 2014年 3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2014年 4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2016年 4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
  • 2017年 3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)修了
  • 2017年 6月 米国プリンストン大学化学科 博士研究員

高活性“アート”反応剤が拓く選択的有機合成

有機金属反応剤によるカルボニル及びイミノ化合物へのアルキル付加反応は、医農薬品合成において有用なアルコールやアミンを得る手法として重要です。しかし、有機金属反応剤は会合しやすいため、反応性がしばしば低下し、複数の反応点を持つ基質への選択的な付加反応を制御することは極めて困難です。そこで、有機金属反応剤の単量化を促すと同時に反応剤自体を大幅に活性化する“アート錯体化”技術に着目しました。アート錯体は、アニオンとカチオンが高度に分極した高配位金属錯体の一形態です。高い求核性と高いLewis酸性を併せ持つため、アルキル付加反応に最適と考えました(図1a)。特に、安価で汎用性の高いGrignard反応剤と塩化亜鉛から簡便に調製できる亜鉛アート錯体において、亜鉛上の配位子にトリメチルシリルメチル基を導入してβ-ケイ素効果を発現させることで、亜鉛アート錯体の反応性を飛躍的に向上できました(図1b~d)。

例えば、α-イミノエステルは光学活性α-アミノ酸を効率的に合成する上で大変有用な原料ですが、従来のアルキル化技術では位置選択性の制御は困難でした。一方、亜鉛アート錯体を用いると、確実な位置選択性(経路a)と光学活性エステルに基づく完璧な立体選択性で、目的の光学活性α-アミノ酸誘導体が収率よく得られました(図2a)。本研究では、アルキン基質が異常に高い反応性を示したことの発見がブレイクスルーとなりました。これまで合成が困難だった光学活性第四級α-二置換アミノ酸が簡便に合成可能となり、人工アミノ酸ライブラリーの構築法として期待されています。

さらに、亜鉛アート錯体を用いる多重共役エステルへの位置選択的アルキル付加反応にも成功しました。亜鉛アート錯体のタイト及びルーズイオンペア特性に合致したマロン酸由来の多重共役エステルの分子設計を行うことで、狙った位置へそれぞれ選択的にアルキル基を導入できました(図2b)。この共役分子構造における位置制御技術は、視覚障害の治療効果があるレチナール誘導体の簡便かつ高効率的合成法として期待できます。

なお、本研究で用いた亜鉛アート錯体については一般試薬化が実現しました。現在、東京化成工業及び和光純薬工業より数種類の亜鉛アート錯体が『アルキルZ試薬』というシリーズ名で販売されています。今後、亜鉛アート錯体を用いる反応開発が益々発展していくことを期待しています。

図1 亜鉛アート錯体

図2 亜鉛アート錯体を用いる高次選択的アルキル付加反応

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