Murate Kosuke村手 宏輔

電子情報システム専攻 博士後期課程3年
  • 1990年生まれ
  • 2015年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2015年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2015年4月 日本学術振興会g特別研究員(DC1)採用

新たな光—テラヘルツ波—を用いた応用開拓

 私は電波と光の中間の周波数帯に位置する、周波数が0.1~3THz付近のテラヘルツ波という電磁波の研究をしています。ものを透過し、吸収スペクトル(指紋スペクトル)からその内部にどのような物質が含まれるのかを見ることができることから、X線や可視光では難しい様々な応用が期待されています。しかしその一方で、ここ20年で発展してきた、まだまだ新しい発展途上の研究分野であり、光源や検出器の開発が遅れています。そこで私は、高出力な光源、高感度な検出器、そしてテラヘルツ波増幅器を開発することでテラヘルツ波の実用化を目指し研究を行っています。

 テラヘルツ波に最も期待される応用の一つに封筒内違法薬物検査が挙げられます。しかし、従来装置ではダイナミックレンジが足りず非常に薄い封筒しか透視できませんでした。そこで私は、光注入型テラヘルツ波パラメトリック発生器(is-TPG)と呼ばれる独自光源を用いて、10桁(100dB)に迫るダイナミックレンジ、0.6.5THzの広帯域波長可変性を有する分光システムを開発しました。本システムを用いることで従来では困難であった、ダンボールや気泡緩衝材からなる23mm以上もの分厚い遮蔽物越しでも試薬同定に成功しました。(図1)さらに、テラヘルツCT(Computed Tomography)も可能とし、プラスチック製品内部の3次元画像化も実現しています。これら応用は他光源では困難であり、私の開発したシステムの優位性が示されています。

 さらに、リアルタイム測定装置開発やテラヘルツ波増幅器開発も行っています。従来は分光の際波長を変化させていたため、一回の測定に数分の時間が必要でしたが、多波長の同時発生により、1ショット分光を実現します。(図2)これまでに5波長によるリアルタイム試薬同定を実現しており、ラインで流れる製品の全数検査などの応用開拓を期待しています。そしてテラヘルツ波増幅器は、is-TPGの原理を用いることで100zJ(=10¯¹⁹J) 以下の極めて弱いテラヘルツ波の90dB以上もの超高利得増幅に成功しています。(図3)この高利得増幅により、従来では4K動作のボロメータを用いなければ検出できなかった極微弱テラヘルツ波も常温動作の検出器で検出できるようになりました。

 テラヘルツ波は現在活発に研究が行われている分野の一つで、今後のさらなる発展、そして実用化が待たれます。私もその一端を担うことができるよう、これからも精力的に研究を進めて参ります。

図1 封筒内試薬検査。厚さ23mmの遮蔽物下の3種類の糖類を区別してイメージングに成功した。

図2 多波長テラヘルツ波発生によりリアルタイム分光装置開発を行い、試薬の吸収スペクトル取得に成功した。

図 3 テラヘルツ波を一旦近赤外光に波長変換しノイズを除去する手法により、極微弱テラヘルツ波の超高利得増幅に成功した。

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