建築デザインの実践と理論

社会基盤工学専攻 助教
堀田 典裕

建築デザインという「思考実験」

我々の研究は1)、建築を中心として、インダストリアル・デザインからアーバン・デザインに至るまで、現代社会に適うデザインを実践するとともに、そのための理論を創出しようとするものです。建築デザインは、変わる部分と変わらない部分を見極めて、新しい価値判断の境界を創出する知性と感性による「思考実験」です。建築デザインに大掛かりな実験装置は必要ありませんが、こうした「思考実験」のあり方は、他の工学研究分野と変わらないと考えます。その結果は、実際の建築デザインに結実されるとともに、 ‘International Competition for Rehabilitating Mapo Oil Depot into Cultural Depot Park (Honorable Mention) '「群馬県中里村新庁舎設計プロポーザル(佳作)」「平田町タウンセンター施設整備公開設計競技(特別賞)」「金津創作の森センター施設設計競技(優秀賞)」のほか、多数の入賞作品として評価されています。

建築図面を通じたグローカル・コミュニケーション

建築デザインは、決して独善的なものでなく、専門家同士はもちろん施主をはじめとする関係者とのコミュニケーションの末にようやく獲得できる「思考実験」です。新しい価値判断の境界の合意形成を行うには、何度も図面を描き直し模型を作り直して、様々な意見を統合する必要があります。その中心にあるのが、建築図面です。建築図面は、民族や人種の垣根を超えて存在する、万国共通のコミュニケーション・プラットフォームです。大学院の担当授業「建築デザイン実習」において行ったメルボルン大学デザイン学部とのジョイント・ワークショップでは、建築図面を通じたグローバル・コミュニケーションが、言語同様に重要な教育・研究課題であることを確認しました。また、建築図面は、ローカル・コミュニケーションを行う上でも有効な手段です。「伊勢湾台風復興住宅」を建築図面として描き起こした実測調査は2)、『中日新聞』朝刊(2014/9/21)一面に取り上げられるなど反響を呼びましたが、それらは低地特有の文化的景観を考えるための地域社会における基礎資料となるものです。

物理的コンテクストと文化的コンテクストに関する学際的課題の解決

ところで、良い建物を建てるには、安全性や快適性に基づいた工学的課題を解決する一方で、その建物が建つ敷地や周辺環境の物理的背景と、その場所に固有の文化的背景に考慮した設計を行う必要があります。これら2つの背景は「コンテクスト」と呼ばれ3)、建築デザインを考える与件となるものですが、土木学・造園学・地理学・社会学・法学・経済学などを横断する学際的課題でもあります。予測される縮退社会では、持続的発展を図るための学際的課題を解決する必要があります。そのために、過去の建築家の造形原理とその表現手法を追体験し、コンテクストを読み解くための新たな理論とその表現方法を構築しようとしています。こうした研究の一部を、『自動車と建築(国際交通安全学会賞・日本都市計画学会石川奨励賞)』、『山林都市(建築史学会賞)』、『吉田初三郎の鳥瞰図を読む(全国学校図書館協議会選定図書)』などの単著として上梓しました。

【註】 1)片木篤教授(環境学研究科都市環境学専攻)と一緒に教育・研究を行っています。 2)「伊勢湾台風復興住宅」の建築デザインに関する一連の研究は、大林財団(2011)と科研費(挑戦的萌芽研究, 2012-15)の研究助成を受けました。 3) S.Cohen, ‘Physical Context / Cultural Context; Including it all’, Oppositions, No.2, 1974.

図1 上段左「小規模クリニックの増築」外観・内観、上段右 ‘Thermo-Sandwich (エコウィルハウス・コンペティション 佳作)’、下段 ‘Tracing the Vestiges: A LoggiaConnecting the Landscape and Technoscape (International Competition forRehabilitating Mapo Oil Depot into Cultural Depot Park, Honorable Mention)’

図2 上段「伊勢湾台風復興住宅」実測断面図、下段左より『山林都市(建築史学会賞)』、『自動車と建築(国際交通安全学会賞・日本都市計画学会石川奨励賞)』、『吉田初三郎の鳥瞰図を読む(全国学校図書館協議会選定図書)』

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