転がり案内の剛性・減衰の
発生メカニズムの解明
-機械システム設計の高度化を目指して-

マイクロ・ナノシステム工学専攻 准教授
田中 智久

機械システムを設計する際には、その強度や動特性を正確に評価する必要があります。この評価を誤れば、予期せぬ機械部品の破壊や望ましくない振動現象を招き、システムの信頼性を損ねる要因となります。近年、計算機シミュレーション技術を利用した機械システムの強度や動特性の予測評価が可能になりつつありますが、多くの場合はシステム内部に結合部(ボルトや案内、軸受など)を有していて、これが全体の強度や動特性の高精度な予測を困難にしています。そのため、これら結合部の剛性・減衰の発生メカニズムを解明して適切にモデル化し、そのモデル内のパラメータを正確に与える必要があります。結合部の剛性・減衰のモデル化やそのパラメータ決定手法が構築されれば、強度や動特性の予測精度を向上でき、機械システム設計の低コスト化や開発期間の短期化、さらに逆問題として要求性能を満たすように結合部の剛性・減衰を最適化することなどが可能になります。

本研究では、機械システムに存在する結合部で一般に広く使用されている転がり案内(図1、図2)を対象として、それ自身の剛性・減衰の発生メカニズムの解明に加え、この転がり案内が組み込まれた機械システムについての動特性予測シミュレーション技術の高精度化を目指しています。

図3(a)に、転がり案内のコンプライアンス(変位量/外力)と外力振動数との関係を示します。この図から、外力の大きさによって転がり案内の動特性が大きく変化することが分かります。このことは、転がり案内の剛性・減衰に非線形性が存在することを意味しています。本研究によって、この剛性・減衰の非線形性が摩擦の弾性挙動に起因して生じることや、摩擦特性のわずかな差異により剛性・減衰の非線形性の傾向が変わることを、詳細な実験や数学モデルを用いた計算機シミュレーションによって解明しました。ここで、摩擦の弾性挙動とは、数百μm以下の微小な変位領域で、摩擦力が変位に依存して変化する性質です。

現在、工作機械や半導体製造装置などの高度なシステムには、ナノメートルオーダの運動精度が要求されており、摩擦の弾性挙動に起因した転がり案内の剛性・減衰の非線形性が無視できません。そこで、私たちはこの摩擦の弾性挙動による影響を考慮した転がり案内単体や機械システムの動特性予測シミュレーション技術の構築にも取り組んでいます。図3(b)は、転がり案内単体の固有の振動状態を有限要素法により解析した結果です。将来的には、転がり案内の摩擦に起因する剛性・減衰の非線形性を考慮した高精度な動特性予測手法の確立を目指しています。これが達成されれば、システムの設計時に必要となる諸条件を最適化できるようになります。

結合部は実在の機械システムに必ず存在しており、そこで起きる複雑な物理現象を解明することがシステム設計の高度化には欠かせません。まだまだ解決すべき課題はたくさんありますが、本研究によって機械システム設計のさらなる高度化の達成を目指しています。

図1 転がり案内が使用されている機械システムの一例

図2 転がり案内の外観と内部構造

図3 転がり案内の動特性解析

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