無機結晶中で現れる「量体化」を制御し
機能を生み出す

マテリアル理工学専攻 准教授
片山 尚幸

同種原子や機能単位が物理的・化学的な相互作用でまとまることを「量体化」といい、化学や生化学の分野で馴染みの深い現象です。電子の持つ多自由度(スピン・軌道・電荷など)が格子自由度を巻き込んで自己組織化することによって、無機結晶の内部においても量体化が生じることがあります。これらの量体化は多くの自由度が微妙なバランスで組み合わさって成り立つことから、わずかな刺激によって大きな変化を示す巨大応答材料や、複合自由度に由来した巨大エントロピーを利用した蓄熱材料など、様々な機能性材料につながる母体となりうる、面白い研究対象です。

図1に、本研究で見出した層状三角格子系バナジウムカルコゲナイドLiVS2で現れる三量体化を示します。高温ではバナジウムは三角格子を形成していますが、約314Kで3つのバナジウムが自発的に集合し、形成された三量体は全体として長周期配列を形成します。バナジウム三量体化の主役はバナジウムのもつ3d電子が有するスピンと軌道の自由度であり、これらが格子系を巻き込んで自己組織化したと考えられます。三量体化は一次転移として現れ、複合自由度に由来した巨大なエントロピー変化(〜6.8J/mol K)を伴っています。さらに、相転移温度は圧力印加によって大きく変化します。そこで例えば、転移温度やや上の320Kで加圧(減圧)を行い、相転移線をまたぐことで、巨大エントロピー変化に由来した大きな熱量効果を得ることができます。このメカニズムを利用すれば、圧力で駆動する「圧力冷凍材料」が実現でき、常温付近で利用可能なノンフロンの固体冷凍材料になり得ると期待されます。また、量体化直前の電子相では複合自由度の融けだした新奇な電子物性の発現が期待できることから、基礎学理の観点からも格好の研究対象です。格子異常を伴う擬ギャップ金属相の発見[1]、スピン軌道短距離秩序状態の実現[2,3]、などの成果が挙がっています。

量体化の化学は、新しい高温超伝導体を開発するための戦略としても有効です。2008年に東京工業大学の細野教授らが発見した鉄系超伝導体は、鉄とヒ素からなる「鉄ヒ素層」とその間をつなぐ「スペーサー層」の積層構造で形成されたサンドイッチ構造が特徴であり、スペーサー層の構造を変化させることで超伝導を担う鉄ヒ素層の電子状態に影響を与え、超伝導転移温度を変化させることができます。本研究では、量体化で形成されたヒ素の鎖をスペーサー層として用いることで、転移温度34Kの超伝導体、112型Ca1-xLaxFeAs2を生み出すことに成功しました[4]。また、この112型Ca1-xLaxFeAs2をベースとした更なる物質開発から、図2に示すように量体化で形成されたヒ素の結合パターンを変化させた新しい112型を次々に実現しています。現時点では、これらの新しい112型化合物において超伝導は現れていませんが、ヒ素の量体化パターンの制御によって、結晶全体の対称性や電子構造次元性は大きく変化しており、適切な量体化パターンの実現から高温超伝導の新たな金脈を探し出すことができると期待しています。

[1] N. Katayama et al., Phys. Rev. Lett. 103( 2009) 146405.
[2] S. Nakatsuji, N. Katayama et al., Science 336( 2012) 559.
[3] N. Katayama et al., PNAS 112( 2015) 9305.
[4] N. Katayama et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82( 2013)123702.

図1 LiVS2の結晶構造と三量体化に伴うVの変位。大きなエントロピー変化と圧力依存性を利用した「圧力冷凍」の有力な候補物質となる。

図2 転移温度34Kの高温超伝導体『112型Ca1-xLaxFeAs2』の結晶構造。層間のヒ素は量体化で形成された「ジグザグ鎖」を形成し、SPring-8の放射光を用いて電子密度分布レベルで確認している。正方格子を組んだ構造や、ジグザグ鎖が縦を向いた構造も実現可能。

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