弱い力を協奏的に使ってナノ材料をつくる

結晶材料工学専攻 准教授
鳴瀧 彩絵

 私たちの身の回りの多くの人工物―家や車、衣類や家具など―は丈夫で、静的な材料です。成長したり、勝手に動き出したりすることはありません。一方、生物は、代謝を繰り返して成長し、生き生きと動き回ります。このような違いは何から生み出されるのでしょう。我々の研究室では、化学の視点から生物らしさを理解し、それを人間が新しい材料を生み出すためのヒントにしています。

生物の体内では、水素結合や疎水性相互作用のように比較的弱い力、あるいはイオン結合やジスルフィド結合など、環境の変化でくっついたり切れたりする、動的な結合が協奏的に使われています。これらが、DNAの複製や細胞分裂、たんぱく質の機能発現を引き起こします。本研究室では、生物がこのように巧みに使う「弱い」「動的な結合」を利用して、新しい材料を生み出しています。このアプローチにより、人間が直接操作することが困難なナノメートル領域において、環境の変化を感じて自発的に組みあがる材料をつくることができます。以下に代表的な研究を紹介します。

1. 体温で形成する人工たんぱく質ナノファイバー

究極の機能性分子であるたんぱく質は、複数のドメイン(機能を持つアミノ酸配列)が連結したブロック高分子であると言えます。しかし、通常、たんぱく質はひとりで何役もこなすため、その配列は非常に複雑です。我々は、血管や皮膚に弾力を与えるたんぱく質「エラスチン」に着目し、その配列に見られる法則をきわめて単純化した人工たんぱく質(図1(a))を遺伝子工学的に作りました[1]。この人工たんぱく質は冷水に溶解しますが、37°Cに温めると自発的にナノファイバーを形成します(図1(b))。温度を上昇させると、分子中にプログラムされた「疎水性相互作用」と「水素結合」が順に発現することがナノファイバー形成の鍵であると考えています(図1(c))。エラスチンも生体中ではナノファイバーとして存在しており、これを人工たんぱく質で再現することに成功しました。ミニマムな配列に、別の機能性配列を付加することで、機能のカスタマイズが可能です。これまでに、抗菌性や細胞接着性を持つナノファイバーを得ており、医用材料として展開しています。

図1 ( a)人工たんぱく質のアミノ酸配列。各アミノ酸を一文字表記にて示している。(b)人工たんぱく質が形成するナノファイバーの原子間力顕微鏡像。(c)予想されるナノファイバーの形成機構。

2. pHに応答して組みあがる無機ナノ粒子

粒子が媒体中に分散した状態である「コロイド」は牛乳やマヨネーズのような食品、あるいは乳液のような化粧品として身の回りに広く存在します。粒子の分散と凝集を制御する技術はきわめて重要です。我々は、コロイド粒子間にはたらく弱い力を制御することで、粒子を水中でチェイン状[2]、リング状[3]、ベシクル状[4](図2)などに組み上げる手法を開発しています。高分子を吸着させたシリカ粒子を水に分散させると、粒子間には静電斥力、立体斥力、疎水性引力の3つの力が主にはたらきます。溶媒のpHを変えるとこれらの粒子間力の大小が変化し、すべての力がつりあうところでチェイン構造など秩序ある構造が生まれます。さらにエキゾチックなナノ構造の構築と、そのような構造が生み出す機能の探索を行っています。

[1] A. S.-Narutaki et al., Biomacromolecules 14 (2013) 1028.
[2] M. Fukao, A. Sugawara et al., J. Am. Chem. Soc. 131 (2009) 16344.
[3] A. S.-Narutaki et al., Polym. J. 47 (2015) 128.
[4] S. Zhou, A. S.-Narutaki et al., Langmuir 31 (2015) 13214.

図2 シリカナノ粒子が形成するベシクル状構造体の透過型電子顕微鏡像。

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