土木鋼構造物を疲労から守る

土木工学専攻 准教授
判治 剛

疲労とは、材料に変動する外力が繰返し作用することによって小さなき裂が発生し、その後のさらなる繰返しにより徐々に成長して、最終的に破断につながる現象です。土木鋼構造物の疲労といえば、一般には、自動車などの外力が長期間にわたって繰り返されることにより起きるものと認識されていますが、実は地震時にも疲労は問題になります。これは低サイクル疲労(または極低サイクル疲労)と呼ばれ、部材が少ない回数の繰返し変形を受けて破壊に至る現象です。実際に、兵庫県南部地震や東北地方太平洋沖地震において、低サイクル疲労による損傷が報告されていますが、未解明な部分が多いのが現状です。

本研究室では、舘石和雄教授、清水優助教とともに、自動車や列車、地震などの外力に対して鋼構造物の疲労破壊を防止するための研究に取り組んでいます。本稿では、地震時の疲労に関する研究を紹介します。

鋼構造物の低サイクル疲労を考えるにあたり、まず材料の低サイクル疲労強度を解明することが必要不可欠です。そのためには、土木鋼構造物において低サイクル疲労が問題となるのは溶接継手部であること、地震時には10%を超えるような大ひずみが生じること、を考慮した実験が必要となります。しかし、従来の試験方法では、座屈の発生により、大きなひずみ域での実験が不可能であり、また溶接継手の実験も困難でした。そこで、図1に示す試験システムを開発しました。板に面外曲げを与えて大ひずみを導入するため、溶接継手にも適用可能です。さらに、新たに開発した画像計測技術を用いたひずみ計測手法を組み込むことで試験片のひずみを制御しながらの試験が可能です。

この試験システムを用いて溶接継手の低サイクル疲労試験を行い、図1に示す疲労強度曲線を得ました。溶接継手では、溶接部周辺の狭い範囲に、鋼素材部、溶接熱影響部(HAZ)、溶接金属部が存在しますが、本試験により、それぞれの疲労強度曲線を構築することができました。また、大ひずみ領域まで適用可能な強度曲線であることも特徴の一つです。

提案した強度曲線を構造物に適用するためには、き裂発生位置である溶接部周辺の局所的な領域に生じるひずみを求める必要があります。そのためには、一般に10-2mmオーダーの要素を用いた弾塑性有限要素解析が行われます。一方、構造物の寸法は数mから数十mオーダーです。このようにスケールの極端に異なる両者を一度の解析で計算することは、計算コスト等を考えると現実的ではありません。そこで、局所領域のひずみを全体系の簡易な解析の結果から推定する手法を考案し、この推定法と提案した強度曲線を組み合わせ、実部材の低サイクル疲労強度を簡易解析から予測できるようにしました。図2には検証実験の結果を示しています。鋼製橋脚基部からのき裂を対象に、その疲労強度を予測したものです。グラフの縦軸は簡易な全体解析から求められるひずみです。さまざまな諸元を有する橋脚に対して、本手法により疲労強度を安全側に評価できることがわかります。

ここで紹介した予測法などにより、疲労損傷の発生を未然に防ぐことが重要ですが、万が一、疲労損傷が生じたとしても、それを適切に直す技術も不可欠です。本研究室では、土木鋼構造物を疲労から守るために、予防から対策まで幅広く技術開発に取り組んでいます。

図1 開発した試験システム(左)と溶接継手の疲労強度曲線(右)

図2 検証実験の概要(左)と疲労強度の予測結果(右)

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