トランスジェニック鳥類を用いた有用タンパク質
生産技術の開発

生命分子工学専攻 助教
金岡 英徳

近年の目覚ましいバイオ医薬品市場の拡大により、治療用抗体をはじめとしたタンパク質性医薬品の需要が増加しています。それに伴い、有用タンパク質を安価に大量に生産できる技術の開発が必要とされています。現在は、チャイニーズハムスター卵巣癌(CHO)細胞などの動物細胞を大型のタンクで培養し、有用タンパク質を生産させる方法が主流ですが、大規模な培養槽の建設、高価な培地の大量消費などの点から、安価に生産できているとは言い難い状況です。その解決策としてトランスジェニック(遺伝子導入)哺乳動物(ウシ、ヤギなど)の乳汁中に有用タンパク質を生産させる研究が行われています。私たちの研究室では、大型哺乳動物と比べ飼育コストやスペースの面でメリットのあるニワトリに着目し、トランスジェニックニワトリの卵中に有用タンパク質を生産させる研究開発を行ってきました。

ニワトリではマウスに見られるようなES細胞の利用が難しいため、トランスジェニック個体の作製法が確立されているとは言えません。我々はこれまでに遺伝子治療などに用いられるレトロウイルスをニワトリ受精卵に直接導入する方法で、卵1個あたり0.2gという大量のモデル1本鎖抗体を生産するニワトリを作製しました(図1)。現在、この技術をもとにトランスジェニックニワトリで生産するタンパク質の高機能化・高品質化を目指し研究しています。

タンパク質は成熟し機能を発揮する過程で、様々な修飾を受けることがわかっています。糖鎖修飾はその一つでタンパク質を医薬品として用いる場合に重要な要素となる血中安定性などに関わっています。糖鎖修飾にはN-結合型とO-結合型の2種類あり、その構造をヒトとニワトリで比較すると基本となる構造は共通していますが、末端の構造に違いが見られます。特に卵白タンパク質のN-結合型糖鎖は末端のガラクトースとシアル酸が付加しておらず、トランスジェニックニワトリで医薬品タンパク質を生産する際の障害となる可能性があります。トランスジェニックニワトリの糖鎖改変(ヒト型化)の第一歩として我々は、腎性貧血の治療薬として使用される糖タンパク質エリスロポエチン(EPO)とガラクトース転移酵素を共導入したニワトリを作製し、卵中に生産されるEPOにガラクトースを付加することに成功しました。現在、ゲノム編集技術や生殖細胞培養の技術を用い、糖鎖構造を完全にヒト型化するための研究や、それらの制御を卵白中だけで行うための組織特異的プロモーターによる遺伝子発現制御システムの開発を行なっています(図2)。

さらに細胞表面の糖鎖構造はウイルスの受容体となり、ウイルス感染性に関わっています。このことから糖鎖制御によるウイルス抵抗性ニワトリの研究や、鶏卵を用いたインフルエンザワクチンの生産効率化の研究への展開もはかっています。

図1 レトロウイルスベクターによるトランスジェニックニワトリの作製
孵卵55時間胚にウイルスベクターを導入した後、人工孵化させることによりモザイク状に遺伝子が導入されたキメラニワトリを取得できる

図2 糖鎖構造改変(ヒト型化)を目指したトランスジェニック技術の応用
卵白タンパク質では末端の糖鎖構造が不十分だが、トランスジェニック技術で糖転移酵素を導入することにより糖鎖構造のヒト型化を目指す

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