産学連携拠点として次代を担う工学研究科関連センター

1. ナショナルコンポジットセンターでのプロジェクトの現況と産学連携

ナショナルコンポジットセンター長 石川 隆司

名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(NCC)が開設され、国家プロジェクト「熱可塑性CFRPの応用製造技術の研究」が開始されて、まもなく一年半が経過しようとしている。ここでは、その進行状況の概要を紹介するとともに、特に産学連携にフォーカスしているプロジェクトの進め方を中心に、最近の成果物についても紹介することとする。

もともとNCCの設置の基本理念を復習すると、1.熱可塑性CFRP(CFRTP)を使用する自動車構造の実証型研究開発拠点を構築すること2.航空宇宙等分野では、新しい熱可塑性CFRP製造技術の研究と耐雷試験設備の運用を中心としたプロジェクト実施3.特に東海・北陸の複合材先端研究拠点のハブとなる研究機関ネットワークを形成することであった。

NCCでは、自動車へのCFRTPの適用を目指す上記のプロジェクトが立ち上がっており、我が国を代表する大手自動車メーカー5社、炭素繊維メーカー3社、自動車部品メーカー等3社の計11社が参加し、26年度においては、NEDO→新構造材料技術研究組合(ISMA)の仕組みの中で、約5億円の経費により、研究開発活動が進んでいる。また、特殊な技術を保有する企業や研究機関への再委託等の制度を駆使して、設計・分析などの活動を進めている。プロジェクトの中心課題は、高生産性・低コスト性の期待が高いLFT-D(Long Fiber Thermoplastic-Direct)技術で製造した高温のCFRTP押出し材を、できるだけ速やかにプレス成型して、可能な限りの大型部品を製造することである。製造に用いる大型プレス(3500重量トン相当)の写真を示す。一年あまりの試作で、この技術は非常に難しいことが判明したが、同時に、総合的な改善によって難関突破が可能であることが見えてきた。その代表例として、最近、試作に成功した自動車のボディのサイドシルを想定した部品模型の写真を示す。複雑な内部の壁(ウェブ)を持つ構造体が成形できている。このような構造は、従来の方法では成形できないものであり、LFT-D技術の持つポテンシャルを表している。

プロジェクトは、参加者メンバーとNCCのスタッフの協議に基づき進められており、いくつかのワーキンググループ(WG)に分かれた議論により、車体の設計、材料の改良・試作、構造の補強方法・接合方法の開発などが、まさに、産学連携の模範となるようなスタイルで進められている。特筆すべきは、技術の難度が高い分、工学研究科で進められている実証的研究への企業の期待が高いことである。このため、最近、学術研究協力WGを強化して、研究科教員の持っている研究能力を、より一層プロジェクトに積極的に活用していく体制を整えたところである。本プロジェクトの実施により得られた総合的な知見が、将来の我が国の自動車構造のCFRTP化の基盤技術の中核になるものと確信している。

交差格子状ウェブ付き補強材

直角方向部分ウェブ付き補強材

大型高速油圧プレス機

2. あいちシンクロトロン光センターを活用した最先端科学研究と産学連携

シンクロトロン光研究センター長 馬場 嘉信

あいちシンクロトロン光センター(AichiSR)が、世界最先端の研究開発を進める知の拠点あいちにおいて2013年3月から運用が開始され、名古屋大学などの大学での最先端科学研究のみならず産業応用および産学連携利用が盛んに行われています(図1、図2)。 名古屋大学シンクロトロン光研究センターは、愛知県・公益財団法人科学技術交流財団等と協力し、あいちシンクロトロン光センターの設計・建設・整備から運営に取り組んでいます。既に、名古屋大学の多くの先生方にあいちシンクロトロン光センターをご活用いただいておりますが、さらに広範囲の先生方に、産学連携も含めた利用を進めていただけるよう、あいちシンクロトロン光センターの現況をご紹介いたします。

あいちシンクロトロン光センターは、シンクロトロン光の光源として、蓄積電子エネルギー1.2GeV、蓄積電流300mA、周長72mの電子蓄積リングを有しており、5Tの超伝導偏向電磁石4台を備えることで、大型の放射光施設と同程度のエネルギー特性を有するシンクロトロン光を実現し、硬X線を利用したビームラインを設置できるという特徴を有しています。

あいちシンクロトロン光センターは、現在、図3-1に示す6本のビームラインを設置しており、硬X線XAFS、軟X線XAFS、光電子分光、X線反射率などの測定が可能であり、一部のビームラインは稼働率が90%以上に達するなど、多くの研究者の方に施設を活用していただいています。利用者の増加に伴って、平成27年度からは、図3-2に示すような2本のビームラインが新規に開設予定となっており、あいちシンクロトロン光センターの適用範囲も拡大する予定となっています。

名古屋大学シンクロトロン光研究センターは、年1回のシンポジウムを開催して、あいちシンクロトロン光センターを活用した最先端科学の利用例に加えて、産学連携の利用例などを紹介しています(図4)。さらに、あいちシンクロトロン光センターの利用促進のために、ビームライン毎に利用者研究会を年間10回程度開催しています。また、あいちシンクロトロン光センターでは、成果公開無償利用を進めており、産学連携利用の促進を進めています。その成果は、図5に示すように、より広範な応用分野に広がっています。

名古屋大学シンクロトロン光研究センターは、放射光利用による名古屋大学の世界トップレベルの研究推進と研究力強化、地域貢献、地域・産学連携強化および地域の課題解決への貢献を目的としており、皆様が、あいちシンクロトロン光センターを利用される際の学術的・技術的支援という多彩な活動を行っています。多くの先生方が、あいちシンクロトロン光センターを活用し、最先端科学研究に加えて産学連携利用を進められることを期待しております。名古屋大学シンクロトロン光研究センターおよびあいちシンクロトロン光センターの活動や利用等の詳細については、ホームページ(http://www.nusrc.nagoya-u.ac.jp/)(http://www.astf-kha.jp/synchrotron/)をご参照ください。

図1 あいちシンクロトロン光センター(下)とシンクロトロン光加速器とビームライン(上)

図2 利用機関内訳
 

図3-1 稼働中のビームライン図3-2 平成27年度開設予定のビームライン

図3-2 平成27年度開設予定のビームライン
 

図4 第3回名古屋大学シンクロトロン光研究センターシンポジウム成果発表テーマ
http://www.nusr.nagoya-u.ac.jp/event/symposium/2013/

図5 あいちシンクロトロン光センター 成果公開無償利用課題成果発表会成果発表テーマ
http://www.astf-kha.jp/synchrotron/userguide/event/skdata_8.html

3. 上流技術から下流技術まで。総合的なモビリティ研究を担う「グリーンモビリティ連携研究センター」

グリーンモビリティ連携研究センター長 森川 高行

日本の経済を支えているのはものづくりである。製造品出荷額は、年間に290兆円程度あるが、そのうち50兆円が自動車関連である(2012年)。原発停止による化石燃料の大幅輸入増により、日本は2011年から貿易赤字を記録しており、2013年には過去最大の10.6兆円になった。その中でも、ひとり気を吐いているのが輸送用機器で13.5兆円の貿易黒字を叩き出している。その輸送用機器の38%を製造・出荷しているのが愛知県であり、2位の静岡県の8%と比べても断トツの地位である。

このように名古屋大学が位置する愛知県は、自動車産業のメッカであり、日本の経済の屋台骨を支えていると言っても過言ではない。しかし、自動車産業がこのようにいつまでも日本を支え続けられるかどうかは誰にもわからない。エレクトロニクス産業の貿易黒字額は過去8年で8割減少した。自動車産業がいつこのような状態になるかもしれない。常に未来社会を見据えて研究開発を続けていかなければならない。

また、自動車をたくさん作って売れれば、愛知、日本、いや世界が幸せになるかというと、もちろんそんな単純なものではない。自動車は産業革命が生んだ素晴らしい発明であり、それ以降の人類の富の蓄積に大いに貢献したことは明白であるが、これだけ世界中で普及すると、その負の側面も大いに問題視しなければならない。すなわち、事故、渋滞、環境、エネルギー、都市景観、コミュニティなどの側面で、大きな社会的費用をもたらしていることも事実である。

「自動車を使いたい」というよりは、「移動したい」「モノを運びたい」という要求の中で自動車を選択することが多くなっていることに正対しなくては、モビリティの問題は解決せず、未来のモビリティを考えることはできない。

名古屋大学グリーンモビリティ連携研究センターは、まさにそのようなモビリティの根源を見据え、それを実現するための技術を、材料や化学といった「上流」から、人間、そして都市や社会といった「下流」まで、さらに情報通信・エネルギー・環境といったモビリティを取り巻く技術をも含めた形で研究開発することを目指している(図1参照)。

2011年7月に本センターが設立されるまでにも、名古屋大学では個々の非常に多くの研究グループがモビリティ研究に携わっていた。しかし、産業界などの外部からは誰にコンタクトすべきかわからないといった問題も指摘されていたし、せっかくこれだけの異なる分野のモビリティ研究者がいるのにその連携研究も限られていた。

本センターの名前に付されている「連携」の意味は、それらの問題を克服すべくつけられたものである。その成果はすぐに現れ、設立当初から多くの連携研究が実施されてきているし、なにより本センター教員が中心となって申請した文部科学省COISTREAMに2013年秋に採択され、2014年に設立された未来社会創造機構の中の名古屋COI拠点が、産学官連携で「高齢者が元気になるモビリティ社会」のための研究開発が始まっている。

今後も名古屋大学の看板の一つとなる研究センターとして邁進できるように、関係各位のご協力をお願いしたい次第である。

ドライビング・シミュレータ

図1 センターの組織図

4. 地域社会に開かれた減災研究の場 減災連携研究センター

減災連携研究センター副センター長 野田 利弘

減災連携研究センターにおける2010年12月設置時から約1年半の活動概況については、 PRESSe. No.31(2012年6月刊行)で紹介しました。今回はその後の状況として、特に2014年3月に完成した減災館とセンターの研究プロジェクトの一端を紹介します。

減災館は、平時には減災研究の先端的拠点であることはもちろん、地域に開かれた防災・減災に関する「備え」を促す場、防災人材育成の場、人と人を繋ぐ連携の場となっています(図1)。「げんさいカフェ」「防災アカデミー」などを毎月実施するとともに,振動台と映像が同期した長周期地震動再現装置、東海地域の各種災害情報を映し出す3次元地形模型や床面空中写真、津波高を実感できる垂れ幕など、基礎的内容から最先端の研究成果を幅広くカバーする展示や、来場者向けの日替わりギャラリートークをほぼ毎日行っています。各種災害資料や情報システムを閲覧できるライブラリーも備え、市民・行政などの来場者は(濃尾地震からちょうど123年目の)2014年10月28日に一万人になりました。減災館はまた、大規模災害発生時の状況把握や情報収集など、大学の災害「対応」の場として役割を果たすべく名古屋大学東山地区初の免震構造が採用され、2階には災害対策室が設置されています。国土交通省中部地方整備局との間の長距離無線LANなども整備されています。

続いて、本センターが関わる主な減災研究プロジェクトを3つ紹介します。一つ目は「『東海圏減災研究コンソーシアム(図2)』による連携プロジェクト」です。2013年3月に東海地区の防災関連センターを有する6国立大学(岐阜大学、静岡大学、名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、三重大学)が参画してコンソーシアムを発足させ、連携研究を行うプロジェクトです。他地域の大規模な大学・研究所による一極集中的な減災研究とは異なり、地域に密着した大学間連携により広範な研究分野をカバーする、東海地域独自の減災連携研究と位置付けています。 二つ目は「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト(図3)」です。来るべき巨大地震・津波による被害の軽減を目的として、巨大津波発生メカニズムの解明、シミュレーションによる広域被害予測、復旧復興計画の検討等を行う当該プロジェクトが、2013年度より文部科学省の委託研究として開始されました。本センターは、このサブプロジェクト1「地域連携減災研究」の代表機関として、防災に関する国内の代表的な研究機関である防災科学技術研究所、海洋開発研究機構、東北大学、京都大学、東京大学と連携して研究プロジェクトを推進しています。当該サブプロジェクトでは、東日本大震災の教訓に学びつつ、地震・津波による被害予測の高度化や災害対応・復興・復旧対策の構築を進め、防災・災害情報のデータバンク整備の研究を実施するとともに、中部、関西、四国、九州の各地域研究会を通した自治体や地域社会との連携により地域に特化した減災対策を検討しています。

三つ目は2014年9月に採択された総合科学技術会議が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)です。センターは「地域協働と情報連携による地域密着型減災シンクタンク構想」を掲げ、災害対応力強化のため、地域の協働・連携を促進し、自発的減災行動の誘発や迅速な災害復旧に資する「減災情報システム」を開発し、西三河地域での社会実証実験などを経て、このシステムの他地域展開を目指すものです。減災社会の実現のためには、工学系の多くの研究者・技術者の一層のご協力も欠かすことができません。引き続きご理解とご支援を賜りますようお願い致します。

図1 基礎的内容から最先端の研究成果に触れることができる減災館1階の展示の様子

図2 東海圏減災研究コンソーシアム

図3 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト

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