Ishidate Ryoma 石立 涼馬

工学研究科物質制御工学専攻 博士後期課程3年
  • 1991年生まれ
  • 2016年3月 金沢大学自然科学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2016年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2016年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)採用

溶出順序を自在にスイッチできるキラル固定相の開発

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学異性体の分離(光学分割)は、光学活性化合物の分取と分析の両方に有効であるため、医薬品等の開発研究において極めて重要な技術です。HPLCによる光学分割では、先に溶出する成分が後から溶出する成分に重なることがあります。従って、光学異性体組成比をより精密に分析するためには、組成比の少ない成分が先に溶出する方が好ましく、光学活性体を大量分取する際は、必要とする成分が先に溶出した方が高い光学純度で得られます。つまり、効率的に光学分割を行うためには、光学異性体の溶出順序が重要ですが、溶出順序のみを自在に制御可能なキラル材料や技術はこれまで皆無でした。
一方、我々が設計・合成した「側鎖にビフェニル基を有するポリアセチレン誘導体(poly-A-poly-D)」は、光学活性ゲストと相互作用させることにより、ポリマー主鎖に一方向巻きのらせん構造が誘起できるだけでなく、一旦誘起したらせん構造が、光学活性ゲストを除去した後も記憶として保持されるという極めて特異な性質を有することが分かりました(図1)。さらに、逆の絶対配置を有する光学活性ゲストで処理することによって、らせんの巻き方向が反転することも分かりました。すなわち本ポリマーは、外部刺激により、らせんキラリティ(“右巻き”と“左巻き”)を自在に誘起・反転・記憶する性質があり、この性質を利用することで「溶出順序の制御が可能なキラル固定相」の開発が可能になると考えました。そこで、らせん誘起・記憶した本ポリマーをシリカゲルに担持したHPLC用の固定相を調製し、光学分割能を評価したところ、多種多様なキラル化合物を光学分割できることが分かりました。さらに、これらのポリマーと架橋剤をシリカゲル上で反応させることで、ポリマーをシリカゲル表面上に固定化できることを見出し、(S)-体または(R)-体ゲストを用いて、シリカゲル上でらせん構造を誘起・反転させることで、光学異性体の溶出順序を自在に切り換えられるキラル固定相の開発に成功しました(図2)。
光学異性体の溶出順序を自在に反転できる本キラルカラムは、キラル化合物の大量分取に特に最適であり、医薬・農薬をはじめとするキラル生理活性物質を扱う分野への多大な貢献ができると期待しています。

キラルHPLCの概略図

図1 らせん誘起および記憶が可能なポリアセチレン誘導体の構造と光学分割

図2 一方向巻きらせん構造の誘起・記憶・反転を利用した化学結合型キラル固定相による溶出順序のスイッチ

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