Doi Takuma土井 拓馬

工学研究科 物質科学専攻 博士後期課程3年
  • 1994年生まれ
  • 2019年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2019年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2020年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
土井 拓馬

SiCパワーデバイスの省電力化に向けた絶縁膜形成手法の開発

脱炭素社会の実現には、エネルギーの効率的な利用が欠かせません。私達の身の回りの電化製品、自動車、社会インフラなどを動かすエネルギーは、用途に応じた変換を経て活用されています。変換の役割を担うのがパワーデバイスであり、変換効率の向上が省電力化の重要な鍵となります。

近年、優れた物性を持つ新規半導体材料であるシリコンカーバイド(SiC)を用いたパワーデバイスである金属-酸化物-半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)が実用化され、従来材料のシリコン(Si)では実現できないような高い変換効率や素子の小型軽量化に貢献してきました。しかしながら、現在のプロセスでは絶縁膜とSiCの界面に形成される欠陥の密度を制御しきれておらず、これによりSiCの持つポテンシャルを十分に引き出せていません。このような問題は、従来のSiを用いた素子では知られておらず、SiCに特有と言えます。したがって、SiCパワーデバイスの更なる省電力化のためには、SiCに特化した絶縁膜の形成手法を開発する必要があります。

私は、界面欠陥の起源が、絶縁膜を形成する際に生じるSiCの酸化物(SiCxOy)にあると考えました。そこで、SiC表面をできるだけ酸化しないよう、低温・低圧で酸化アルミニウム(Al2O3)膜を形成する新手法(Metal Layer Oxidation, MLO法)を開発しました(図1)。本手法は、熱力学的な予測からSiCに比べてAlが優先的に酸化されることを利用し、極薄のAl膜を室温で堆積・酸化することでAl2O3膜を形成します。X線光電子分光法によりSiC表面の酸化状態を評価したところ、従来手法である原子層堆積法によりAl2O3を形成した場合はわずかなSiCxOy形成が認められましたが、MLO法を用いた場合はこれが検出限界以下であることが確認されました。また、欠陥が作るエネルギー準位の密度を、電気的な測定により見積りました(図2)。MLO法は、欠陥準位の密度が従来手法に比べて4割ほど低いことが分かります。さらに、Al2O3/SiC界面に意図的にSiCxOyを形成する実験を行ったところ、欠陥準位の密度が高くなることも分かりました。これらの結果は、SiCxOyの形成抑制が良質な界面を形成する鍵であることを意味しています。

現在は本手法を用いたMOSFETの作製を行い、動作実証や特性の評価を進めています。これからも、社会貢献を目指し研究に邁進していきます。

図1 Metal layer oxidation (MLO)法の模式図。SiCの表面を酸化させずに、Al2O3膜の形成が可能。

図1 Metal layer oxidation (MLO)法の模式図。SiCの表面を酸化させずに、Al2O3膜の形成が可能。

電動帯端からのエネルギー(eV)

図2 Al2O3/SiC界面における、欠陥が作るエネルギー準位の密度。MLO法を用いることで、従来手法よりも欠陥準位の密度が4割程度低減した。
また、意図的にSiCxOyを形成した場合には、欠陥準位の密度が増加することも分かった。

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