Soga Kyohei曽我 恭平

工学研究科 生命分子工学専攻 博士後期課程3年
  • 1997年生まれ
  • 2022年3月 名古屋大学工学研究科 博士前期課程修了
  • 2022年4月 名古屋大学工学研究科 博士後期課程進学
  • 2022年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)採用
曽我 恭平

化学で神経科学の生命現象を解明

我々の脳内ではおよそ1000億個の神経細胞が互いに情報のやり取りを行い、記憶・認知・感情といった脳機能が発現します。細胞間のシグナル伝達ではアミノ酸やホルモン等の神経伝達物質のやり取りが行われています。情報が到達した細胞は神経伝達物質を放出し、次の細胞膜上の受容体というタンパク質が受け取ることで情報が伝わります。近年、細胞膜上の受容体の増減や動きが記憶や学習、あるいは疾患に関連することがわかってきました。

神経細胞には様々な受容体が存在しますが、その中でもAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)はその動態が厳密に制御されていることが知られています。例えば、神経活動によって細胞膜上のAMPA受容体の量が増加すると、情報の受け手が増えるため神経細胞間の情報伝達は促進されます。AMPA受容体の動態変化による神経活動の変化は記憶・学習のメカニズムの一端であることが知られるため、その動態解析が求められています。従来は、本学の下村先生が発見したGFPに代表される蛍光タンパク質を融合する方法が動態解析に用いられてきましたが、あくまでも人工タンパク質の動態を見ているに過ぎないという問題点がありました。

このような背景から我々は、有機小分子を用いたAMPA受容体の可視化および動態解析を行っています。有機小分子は細胞に処置するだけで天然の受容体が可視化可能という点で優れています。設計としては、AMPA受容体の薬剤と蛍光色素を融合した新規プローブを合成しました(図(a))。このプローブは薬剤の部分がAMPA受容体に認識されることで、AMPA受容体を選択的に可視化することが可能です。このプローブを神経細胞に処置すると、10秒以内というごく短時間でAMPA受容体の標識が可能であることがわかりました。また、この特徴を利用して、神経活動の一種である長期増強によって細胞膜上のAMPA受容体が1.6倍増加することを捉えることに成功しました(図(b))。

最後に、神経細胞におけるAMPA受容体の増加メカニズムの解明にも着手しました。AMPA受容体が増加する際に細胞膜上を拡散してくるのか、細胞内から出てくるのかが議論が分かれています。我々は、このプローブを使うことで、細胞内から出てくることでAMPA受容体が増加することを突き止めました(図(c))。従来の研究では蛍光タンパク質を融合させた人工AMPA受容体を用いていますが、本手法は神経細胞に元来存在するAMPA受容体を可視化して動態解析するので、結果の信頼性が高く、今までの議論に決着をつけることができたと考えています。

現在は、プローブの性能を更に向上させることに着手しており、将来的には動物個体に適用して、より高次の機能解明を行いたいと考えています。

図 (a) 新規プローブによるAMPA受容体の可視化の概念図。 (b) 神経細胞のイメージング画像。新規プローブを用いた、長期増強時のAMPA受容体の可視化。緑:プローブの蛍光、灰色:細胞骨格。 (c) AMPA受容体の発現量増加メカニズム。

図(a)新規プローブによるAMPA受容体の可視化の概念図。(b)神経細胞のイメージング画像。新規プローブを用いた、長期増強時のAMPA受容体の可視化。緑:プローブの蛍光、灰色:細胞骨格。(c)AMPA受容体の発現量増加メカニズム。

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