SASAKI Ken佐々木 建

マイクロ・ナノ機械理工学専攻 博士後期課程3年
  • 1998年生まれ
  • 2023年3月 弘前大学理工学研究科博士前期課程修了
  • 2023年4月 弘前大学理工学研究科博士後期課程進学
  • 2024年4月 名古屋大学工学研究科博士後期課程編入学
  • 2023年4月 日本学術振興会特別研究員(DC1)採用
佐々木 建

バーチャルナノマシン──情報から物理機能を創発するナノロボティクスの新境地

私は、電場を動的に形成してナノマシン(ナノサイズの構成要素からつくられる機械装置)の物理機能を生成するナノマシン‐コンピュータインターフェースを研究しています。

1959年にFeynman博士が技術の勃興を予見したナノマシンが、今日では実用化に向けて精力的に研究されています1)。主な応用先として生体内への薬物送達や環境汚染物質の能動的な捕集と分解、高効率な環境発電デバイスなどが期待されていますが、絶えず変化する過酷な環境下で単純なタスク(捕捉/放出/輸送)と複雑なタスク(分離/捕集/検出)を選択的に遂行するように多機能化されたナノマシンを設計する方法は必要不可欠です。従来の方法では、複数の異質材料からナノマシンを作製し、次に適切な駆動力(磁気、光、電気など)を与えることで推進運動を実現します。さらに、推進運動の方向やモードを制御するために多重化された駆動方式を採用することで多様に動作するナノマシンを設計してきました。しかし、事前に選択された材料と構造は、ナノマシンの駆動機構と表現可能な物理機能を制約します。また、材料物性をプログラムし、構造形状を再構成するために推進機構と直交する外部刺激が新たに選択されるため、多機能ナノマシンを実現する技術は大きな課題となります。

私の所属するバイオサイバネティクス研究グループでは、電子ビームを走査することでナノスケールに集束した電場パターンを投影するバーチャル電極ディスプレイを開発し、タンパク質や脂質分子、マイクロ・ナノ粒子の運動操作を実証してきました2)。そこで私は、バーチャル電極ディスプレイを改造し、電子ビームを走査する位置と形状を動的に変調しながら電場パターンを投影するシステムを開発しました。そして、本システムが分子や粒子の運動を操作し、機能を生成しうるかを実験とシミュレーションにより検証し、これまでに蛍光標識DNA分子の立体構造の電気化学的な操作3)、2D炭素材料の一つである酸化グラフェン粒子をサイズの違いによって電気流体力学的に分画する機能を実証しました(図1)4)。現在は、電場パターンの制御によってナノ薄膜の表面地形を電気機械的に再構成することで、接触を伴う界面の機能を操作する実証を進めています。

電子ビームを走査する位置や形状を決めるプログラムは、コンピュータ内でエンコード可能なデジタルの関数式に基づいており、物理現象を観察しながらその場で書き換えることができます。これは、有形の物質から構成される従来型のナノマシンに対して、無形の情報から構成されるバーチャルな(Virtual:実質上の)ナノマシンを物理空間へ出現させる前例のないアプローチであると考えています。今後は、ナノスケール電場パターンが動的に制御可能な電気現象を数理的に記述することで、センサやトランスデューサ、群れロボットなどの複雑な物理機構を情報化し、新たな機能を創発することを目指しています(図2)。

1)X. Ju et al, ACS Nano, 19, 24174‒24334 (2025)
2)星野隆行,宮廻裕樹,応用物理,第92巻 ,第5号,283‒286項 (2023)
3)K. Sasaki and T. Hoshino, Jpn. J. Appl. Phys., 61 SD1037 (2022)
4)K. Sasaki and T. Hoshino, Colloids Surf. A: Physicochem. Eng. Asp., 720, 137056 (2025)

図1 電場パターンを用いて酸化グラフェン粒子をサイズ分画するシステム。写真中のスケールバーは20µmを表す

図1 電場パターンを用いて酸化グラフェン粒子をサイズ分画するシステム。写真中のスケールバーは20µmを表す

図2 情報化された物理機能をもつバーチャルナノマシンの概念図

図2 情報化された物理機能をもつバーチャルナノマシンの概念図

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