岡本佳男 特別教授が2019年(第35回)Japan Prize(日本国際賞)を受賞
受賞業績 らせん高分子の精密合成と医薬品等の実用的光学分割材料の開発への先駆的貢献

化学組成が同じで、左手と右手のように重ね合わせることのできない立体構造をもつ一対の分子が存在することがある。(図1)こうした2つの分子は鏡に映した像どうしの関係にあるので、鏡像異性体と呼ばれ、鏡像異性体は体内に入ると別々の生理作用を示すことがあり、一方には医薬品としての効果があるのに、もう一方には副作用があったり効果がなかったりする場合がある。医薬品や農薬などの製造では、鏡像異性体の一方だけが必要とされることがよくあるが、通常の化学合成で生じるのは鏡像異性体が同量含まれる混合物であり、鏡像異性体は融点や沸点が同じなので、両方の分離は簡単ではない。

岡本特別教授は、一方巻きらせん高分子の合成に世界ではじめて成功し、このらせん高分子を円筒に充填し、鏡像異性体の混合物を溶媒とともに注入すると、一方の異性体はらせん高分子に捕まり、もう一方はそのまま流れ落ちる仕組みをもちいて、鏡像異性体の分離(光学分割)が簡便にできるようにした。(図2)
実用化されたらせん高分子による光学分割の技術は、世界中の研究機関や企業で広く利用され、医薬品・香料・機能性材料などの研究開発や製造に多大の貢献をしている。

らせん高分子合成の基礎から実用に至る業績は、国際的に高く評価され、今回の受賞となった。

日本国際賞は、全世界の科学技術者を対象に、独創的で飛躍的な成果を挙げ、科学技術の進歩に大きく寄与し、もって人類の平和と繁栄に著しく貢献したと認められる者に与えられるもので、毎年、科学技術の動向を勘案して決められた2分野で受賞者が選定されます。

岡本特別教授は、「物理、化学、情報、工学」領域、「物質・材料、生産」分野において、名古屋大学関係者では竹市雅俊特別教授に次ぐ2人目の栄えある受賞となり、授賞式は、4月8日(月)に天皇皇后両陛下ご臨席のもと行われました。

資料提供:公益財団法人国際科学技術財団

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