「ばい菌」は地球を救う! ―微生物を用いた環境浄化・エネルギー資源回収―

未来材料・システム研究所 工学研究科 土木工学専攻 教授
片山 新太

環境意識が高まり、地球に対する意識も「宇宙船地球号」として有限の空間として捉える時代になりました。持続可能な社会を作ることの重要性が2015年9月の国連サミットで確認され、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として、17の「持続可能な開発目標」が定められました。持続可能な社会とは、地球上の物質循環のバランスを保つことのできる範囲の中で人間活動を発展させるというものです。これまで、人類は様々な自然破壊を繰り返してきました。例えば、化学物質による大気、水、土壌の汚染が問題となりました。また温暖化ガスの様に地球環境問題も生じています。このままでは、地球上の物質循環のバランスが壊れてしまう懸念から、17の「持続可能な開発目標」の早期達成が叫ばれているわけです。

大気、水、土壌における化学物質汚染が報告された後、多くの努力がされて問題解決が図られてきました。大気と水の汚染の問題の多くは解決されましたが、土壌地下水あるいは沿岸底質の汚染の問題は残された課題となっています。また、人間活動から常時発生する廃棄物や排水中に含まれる有害化学物質の除去は継続的な課題となっています。

地球上の物質循環は、いわゆる「ばい菌(微生物)」によって支えられています。そのため、土壌・水・底質の浄化には、微生物を用いた技術が最も安価で効果的として期待されていますが、多くの課題も指摘されています:(1)土壌掘削が不要の原位置浄化(嫌気性微生物反応の必要性)、(2)微生物には難しい複合的な汚染(揮発性有機化合物、ハロゲン化芳香族化合物、重金属、生理活性物質)、(3)反応速度が遅く浄化期間の予測が難しい、(4)微生物反応速度を高めるために適切な養分の継続的添加が必要、などが指摘されています。そこで、私たちは、無酸素条件(嫌気性条件)で生息する嫌気性微生物を用い、これらの課題を解決する研究を進めてきました。

その研究から、土壌や底質中に含まれる腐植物質の中で、酸アルカリに不溶の固体腐植ヒューミンが、多様な微生物に対して細胞外電子伝達物質として働き、浄化反応を促進することを世界に先駆けて見出しました。発見した固体腐植ヒューミンを介した微生物と電気の相互作用を利用すると、養分の代わりに太陽電池の様な再生可能エネルギーによって微生物の浄化反応を促進する新しい生物電気化学システムが期待されます(上記の課題の4番目が解決できます)。更に、固体腐植ヒューミンで形成される異種微生物間の電気共生系は、温暖化ガスによる環境問題、即ち硝酸イオンの脱窒処理時の亜酸化窒素ガスの発生抑制技術にも利用できることが明らかになってきました。私たちは、現在この新しい微生物電気化学システムによって環境浄化やエネルギー回収、さらには資源化の実現を目指して研究を進めています。

図1

図1 固体腐植ヒューミンによる細胞外電子伝達を用いた生物電気化学システム
a.固体腐植ヒューミンを介した嫌気性微生物の電気共生系
b.細胞外電子伝達を用いた発電システムおよび還元反応促進省エネルギーシステム(それぞれ半反応で示す)
c.2槽式の微生物電気化学システム、茶色く見えるのは固体腐植ヒューミンの懸濁物

低温プラズマ科学研究センターの看板上掲式2

図2 微生物電気化学システムの応用への期待
a.地下水の油汚染の事例
b.反応性透過壁への微生物電気化学システムの応用

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