弾塑性地盤力学に基づいた
精緻な地盤被害予測を目指して

土木工学専攻 准教授
中井 健太郎
土木工学専攻 准教授 中井 健太郎

東北地方太平洋沖地震(2011)では、津波被害や原発事故に隠れてやや影の薄い感があるかもしれませんが、東京湾沿岸部を中心として、甚大な液状化被害が発生しました。液状化については、新潟地震(1964)やアラスカ地震(1964)以降、注視されていましたが、広範囲における戸建て住宅の沈下・傾倒被害、長期にわたるライフラインの機能麻痺など、これまでの観測記録や想定と比べ、はるかに上回る被害が発生しました。被害の大きかった浦安市を例にとると、(1)震源から300~400km離れており、震度が5弱~5強程度であったにも関わらず液状化被害が甚大であったこと、(2)従来は液状化しにくいと考えられてきた細粒分を多く含む土が液状化したこと、(3)液状化被害が空間的に不均一であったことが特徴として挙げられますが、甚大な被害は地震動の継続時間として、被害のばらつきは地盤改良の有無や埋立年代の違いとして説明されることがほとんどでした。これら指摘は確かに正しいのですが、細粒分を多く含む土が液状化したメカニズムや、非一様に発生した液状化被害の十分な説明にまでは至っていませんでした。浦安市の地層構成を確認すると、硬質な基盤面が北西から南東に向かって深く沈み込み、そこには軟弱粘性土が厚く堆積しています。私たちはこの傾斜した不整形な地層構成に着目した弾塑性地震応答解析を実施し、(a)厚く堆積する軟弱粘性土層の地震動による「乱れ」が地震波を長周期の範囲で増幅させること、(b)基盤の傾斜基端部から長周期の表面波が生成されること、(c)これら実体波と表面波による増幅的干渉が、表層の液状化危険度を局所的に著しく高めることを明らかにしてきました(図1)。

浦安市で見られる地層不整形性は珍しいものではなく、傾斜基盤構造や盆地基盤構造など、平坦な地面の下には大小様々な不整形地層が無数に存在しています。加えて、日本国内には無数の軟弱粘性土地盤が存在し、その上には様々な構造物が立地しています(図2)。しかし、内閣府や自治体が公開しているハザードマップをはじめとして、既存の多くの液状化予測手法は鉛直一次元的評価がほとんどで、地層不整形性に起因する複雑な波動伝播特性が考慮されていません)また、粘性土は確かに砂質土に比べて地震時に鈍感ですが、その堆積状態が軟弱な場合や粒径の大きい砂やシルトを多く含む場合でさえ、地震被害は発生しないとされ、事実上、弾性体としてモデル化されています)このような過去の経験に依拠した簡易モデルによる被害予測では、想定外の外力(巨大地震や豪雨)や複合災害(大型台風と巨大地震の同時発生など)が作用した時の被害予測にはとても太刀打ちできません)現在、私たちは、濃尾平野を中心とした地盤の立体的構造モデルの作成に取り組むとともに、地層不整形性が表層地盤や構造物の地震被害に及ぼす影響を検討し、最新の弾塑性地盤力学の知見に基づいた精緻な地盤被害予測に貢献することを目指しています。

図1 地層不整形性が表層液状化被害に及ぼす影響の検討(浦安市の液状化被害の再現を通して)

図1 地層不整形性が表層液状化被害に及ぼす影響の検討(浦安市の液状化被害の再現を通して)

図2 軟弱粘性土層の乱れを起点とする河川堤防の滑り破壊のシミュレーション

図2 軟弱粘性土層の乱れを起点とする河川堤防の滑り破壊のシミュレーション

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