磁性ナノ粒子が拓く医療技術

化学システム工学専攻 教授
井藤 彰
化学システム工学専攻 教授 井藤 彰

酸化鉄のナノ粒子を種々のバイオマテリアルで修飾することで、機能をもった磁性ナノ粒子を開発して医療技術の開発を行っています。

1. 機能性磁性ナノ粒子の開発

マグネタイト(Fe3O4)は化学的に安定で生体適合性の高い酸化鉄です。直径10nmのマグネタイトをさまざまなバイオマテリアルで修飾することで、機能性磁性ナノ粒子を開発しています(図1)。

2. 機能性磁性ナノ粒子を用いた再生医療

再生医療で使用する細胞に磁性ナノ粒子をくっつけると、磁力で細胞を操ることができます。再生医療における細胞分離・遺伝子導入・増幅培養・凍結保存・三次元組織構築といった各プロセスに応じた機能性磁性ナノ粒子を作製し、磁力を用いた再生医療プロセスの開発を行っています(図2)。特に、磁力を用いたティッシュエンジニアリング技術として、培養された細胞を機能性磁性ナノ粒子で磁気標識して磁力で積み上げていくことにより、立体的な移植用の組織を作る手法を開発しました。また、凍結保存技術に関しては、従来の100倍量のiPS細胞を一度に凍結保存する技術の開発や、糖尿病の移植医療に有用なインスリン分泌組織である膵島の大量凍結保存に成功しています。

3. 機能性磁性ナノ粒子を用いたがん治療

磁性ナノ粒子は磁石に引き寄せられるだけでなく、交流磁場で発熱する性質をもちます。交流磁場は体内を透過するので、腫瘍組織に磁性ナノ粒子を送達することができれば、体外から交流磁場を照射して腫瘍だけを加温することができます。磁性ナノ粒子はMRI(核磁気共鳴イメージング)で映るので、機能性磁性ナノ粒子を注射して腫瘍に磁性ナノ粒子を集めることができれば、どこに腫瘍があるかを検知することができます。さらに、交流磁場を照射することで磁性ナノ粒子を発熱させて、腫瘍組織だけを加温して破壊することが可能となります。つまり、磁性ナノ粒子を用いることで、がんの診断と治療が同時に可能となります(図3)。動物実験での高い治療効果の実証を経て、すでに臨床研究が開始されています。私たちは、この工学発の新しいがん治療法を実用化するための研究開発を行っています。

[1] Y. Tamura, A. Ito, K. Wakamatsu, T. Kamiya, T.Torigoe, H. Honda, T. Yamashita, H. Uhara, S. Ito, K.Jimbow, Int. J. Mol. Sci. 23(12):6457, 2022.
[2] T. Wakabayashi, M. Kaneko, T. Nakai, M. Horie, H.Fujimoto, M. Takahashi, S. Tanoue, A. Ito, Bioeng.Transl. Med. 2022;e10416. doi:10.1002/btm2.10416.
[3] A. Ito, K. Yoshioka, S. Masumoto, K. Sato, Y. Hatae, T.Nakai, T. Yamazaki, M. Takahashi, S. Tanoue, M.Horie, Sci. Rep. 10:13605, 2020.

図1 機能をもった磁性ナノ粒子の開発

図1 機能をもった磁性ナノ粒子の開発

図2 機能性磁性ナノ粒子の再生医療プロセスへの応用

図2 機能性磁性ナノ粒子の再生医療プロセスへの応用

図3 機能性磁性ナノ粒子を用いたがんの診断と治療の統合

図3 機能性磁性ナノ粒子を用いたがんの診断と治療の統合

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