非線形効果を用いた先端レーザー光源の
開発と応用展開

電子工学専攻 教授
西澤 典彦
電子工学専攻 教授 西澤 典彦

20世紀の3大発明の一つであるレーザーは、先端科学の分野を始め、医療や産業のさまざまな分野で広く活用されています。レーザーの中でも特に光ファイバで構成される「ファイバレーザー」は、安定性、高出力性、エネルギー効率などに優れており、実用的なレーザーとしてその活用が拡がり続けています。レーザーを用いた応用技術で優れた特性を得るためには、用途に合った波長のレーザー光を用いる必要があります。しかし、レーザー光の波長は、レーザー内に用いられる光増幅器の特性で決まり、これまで波長を変化させることは容易ではありませんでした。

光通信でも広く活用されている光ファイバは、小さなコアの内部に光を長距離に渡って閉じ込め、伝搬させることができます。この特性を用いると、光の強度に依存して屈折率が変化する非線形効果を効率よく誘起することができます。

我々はこの光ファイバを駆使し、フェムト秒(fs、10-15秒)台の超短パルスを出力するレーザーや超広帯域に波長を変化できるレーザー、光の物差しとして機能する超高精度レーザーなどの高機能な先端レーザー光源を開発し、更に、それらを活用した生体イメージングや環境計測などの新しい応用技術の開発を進めています。

その応用技術の一つは、生体などの被測定対象の内部を非破壊非接触で、マイクロメータの分解能で観測できる高分解能光断層計測です。生体における光の透過性は光の波長に依存しています。我々は「生体の第3の窓」と呼ばれ注目を集めている波長1.7μm帯において高出力な広帯域光源を開発しました。加えて、それを光断層計測に用いて、マウス脳の内部構造を、海馬の下部の深さまで非破壊で初めて観測することに成功しました。イメージング速度は速く、現在、生きたマウスの脳内部をリアルタイムで観測することを目標に研究を進めています。

最近、分子ガスなどが示す非常に細い吸収を受けた超短パルス光を光ファイバに通すと、非線形効果によって吸収がスペクトルのピークに変換される新しい現象を見出しました。この現象を光周波数コムに応用すると、光周波数コムの特定のモードだけを選択的に増強して抽出することができます。この技術を用いると、大気中に微量にある地球温暖化ガス分子や環境汚染物質を選択的に検出できる超高感度な分光計測が可能になります。現在、JSTCRESTのプロジェクトで、この技術の実現に向けて光計測のグループと協力し、精力的に研究を進めています。

[1] N. Nishizawa, H.Kawagoe, M. Yamanaka, M.Matsushima, K. Mori, and T. Kawabe, IEEE J. Select.Top. Quant. Electron. 25, 7101115 (2019) (Invited
paper)
[2] N. Nishizawa and M. Yamanaka, Optica 7, 1089-1092(2020)
[3] N. Nishizawa, S. Kitajima, and Y. Sakakibara, Opt.Lett. 47, 2422 (2022)

図1 広帯域光源を用いて非破壊で観測したマウス脳の断層イメージ。(a)垂直断面、(b)水平断面。脳内の血管や神経組織が見えています。

図1 広帯域光源を用いて非破壊で観測したマウス脳の断層イメージ。(a)垂直断面、(b)水平断面。脳内の血管や神経組織が見えています。

図2 メタン(CH4)の吸収スペクトルと非線形効果を用いて生成したスペクトルピーク。現在この光源を用いて高感度分光計測技術の開発を進めています。

図2 メタン(CH4)の吸収スペクトルと非線形効果を用いて生成したスペクトルピーク。現在この光源を用いて高感度分光計測技術の開発を進めています。

図3 広帯域ファイバレーザー光源を用いたイメージングシステムの実験系。まとめるとコンパクトになり、企業と協力して製品化を進めています。

図3 広帯域ファイバレーザー光源を用いたイメージングシステムの実験系。まとめるとコンパクトになり、企業と協力して製品化を進めています。

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