新奇な超伝導体の圧力効果と
電子状態の解明

応用物理学専攻 講師
谷口 晴香
応用物理学専攻 講師 谷口 晴香

超伝導はゼロ抵抗と完全反磁性という驚くべき性質を持ち、エネルギー損失のない送電線などへの応用が期待できることで有名です。超伝導状態ではフェルミオンである電子が対を組んでボゾン化し、位相の揃った波として振る舞っていることが1957年に示されました。このBCS理論では、対を組む電子のスピンは一重項、重心運動量はゼロであり、対形成の起源は電子-格子相互作用である、とされていました。しかし、新しい超伝導体の発見に伴って、電子対のスピン・運動量および起源にバリエーションがあることが次々と明らかになりました。このような非従来型の超伝導たちは転移温度のブレイクスルー等をもたらしうるため、その電子状態やメカニズムに大きな興味が持たれます。私たちは電子状態にアプローチする手段として、電子間相互作用の強さや結晶の対称性を制御できる圧力に着目しました(図1)。

(1)静水圧による電子間相互作用の制御と超伝導特性の変化

Pr2Ba4Cu7O15-δは、高温超伝導体として有名なY系銅酸化物と同様の結晶構造ながら(図2)、CuO2面ではなくCu-O二重鎖で超伝導が発現する擬一次元系であり、その超伝導メカニズムはまだ解明されていません。私たちは等方的な圧力である静水圧を加え、電子間相互作用の強さを変えたときの、磁気・輸送特性や結晶構造の変化を調べました。興味深いことに、超伝導は2.0 GPa手前まではいったん抑制されるが、それ以上では復活の兆しを見せるということが明らかになりました。また、超伝導転移する前の高温域では、電子のサイクロトロン運動に起因する磁気抵抗効果(磁場による電気抵抗の変化)が、圧力をかけたときだけ生じることを見出し、静水圧によって電子状態が二次元に近づいていることを明らかにしました。さらに、図2に示すように、二重鎖間相互作用つまり二次元性の指標となるCu-O二重鎖間の距離が、圧力に対して単調減少するのではなく、約2.0 GPaで最小になることを発見しました。以上より、Pr2Ba4Cu7O15-δの超伝導は二次元相互作用が強まるにつれて抑制されると考えられ、他の銅酸化物高温超伝導とは全く異なるメカニズムであることを明らかにできました。

(2)一軸圧による結晶対称性の制御と新しい超伝導相の誘起

層状ペロブスカイト構造を有するSr2RuO4では、数々の先行研究から、その超伝導が非従来型であることが確実視されています。しかし、超伝導を特徴づける波動関数が何であるか?については未だ決着がついていません。私たちは結晶の一方向だけを圧縮する一軸圧を用い、結晶対称性を4回対称の正方晶から2回対称の斜方晶に下げたときの超伝導特性の変化に着目しました。一軸圧下交流磁化率測定法を開発し、反磁性シグナルを測定したところ、わずか0.05 GPaで超伝導オンセット温度が倍増することを見出しました。この変化は、転移温度の上昇という定量的な変化にとどまらず、超伝導波動関数の変化つまり相転移であることが強く示唆されます。この結果から、Sr2RuO4には波動関数の異なる2つの超伝導相が存在しており、一軸圧によって特定の超伝導相を安定化できる、という描像が得られました。

今後はさらに他の測定手法と圧力を組み合わせた実験も展開し、新奇な超伝導たちの電子状態やメカニズムについてより深く追究していこうと考えています。

[1] H. Taniguchi, Y. Nakarokkaku, R. Takahashi, M. Murakami, A. Nakayama, M. Matsukawa, S. Nakano, M. Hagiwara, and T. Sasaki, “Nonmonotonic Pressure Dependence of the Lattice Parameter a in the Quasi-one-dimensional Superconductor Pr2Ba4Cu7O15-δ”, J. Phys. Soc. Jpn. 90, 015001 (2021).
[2] T. Senzaki, M. Matsukawa, T. Yonai, H. Taniguchi, A. Matsushita, T. Sasaki, and M. Hagiwara, “Functional materials synthesis and physical properties” in “Recent Perspectives in Pyrolysis Research”, (IntechOpen, London, 2021), DOI: 10.5772/intechopen.100241, ISBN 978-1-83969-915-3.
[3] H. Taniguchi, K. Nishimura, S. K. Goh, S. Yonezawa, and Y. Maeno, “Higher-Tc Superconducting Phase in Sr2RuO4 Induced by In-Plane Uniaxial Pressure”, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 014707 (2015).

図1 圧力を用いた超伝導研究のねらい。写真は圧力セルやサンプル。

図1 圧力を用いた超伝導研究のねらい。写真は圧力セルやサンプル。

図2  擬一次元超伝導体Pr2Ba4Cu7O15-δの結晶構造と粉末X線回折パターン。2.07 GPaにおいて、200ピークの回折角2θが最大なので、格子パラメータa すなわち隣接する二重鎖間の距離は最小となる。そのため、この圧力で二次元的な電子間相互作用が最も増強されると推測される。

図2 擬一次元超伝導体Pr2Ba4Cu7O15-δの結晶構造と粉末X線回折パターン。2.07 GPaにおいて、200ピークの回折角2θが最大なので、格子パラメータaすなわち隣接する二重鎖間の距離は最小となる。そのため、この圧力で二次元的な電子間相互作用が最も増強されると推測される。

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