次世代光ネットワークの実現を目指して

情報・通信工学専攻 教授
長谷川 浩
情報・通信工学専攻 教授 長谷川 浩

この記事を読んでいただいている皆さんは、凹凸のついたプラスチック製のブロックを組み立てた経験を一度お持ちだと思います。組立マニュアルに従って完成させる場合もありますが、様々なブロックの在庫をもとに自由に創作することもまた多いでしょう。後者の場合には、頭の中で、創作する対象をブロックの積み上げとして近似しながら、必要なブロックと在庫を照らし合わせて積み上げを修正するサイクルを繰り返します。そのサイクルを繰り返す中で、ブロックの新たな使い道を発見する場合もあるでしょう。つまり、ブロック、ブロックを幾つか組み合わせたパーツ、パーツを組み合わせた全体像が互いに関係していて、お互いの関係を考えながら個々を良くしていく必要があります。私が取り組んでいる光ネットワークに関する研究は、この創作プロセスに少し似ています。以下では一例をご紹介します。

自在な波長グループ化と経路制御を行う超大容量光ノード

最新の光ネットワークでは、通信拠点(ノード)間に網目状に張られた光ファイバを通じて様々な波長の光信号を同一光ファイバ内に多重して伝送します。光信号が途中で経由するノードでは、波長を利用して各信号を識別し経路を切り替えます。光信号のまま伝送することによる遅延や消費電力の少なさが利点ですが、一方で伝送途中で信号の品質が劣化していく困難を克服する必要があります。ノード装置では、波長毎に経路を切り替えできる高価な先端デバイス「波長選択スイッチ」が用いられており、入手可能なスイッチの出力数は数個〜50個程度です。光ノードを構成するにはそこに接続された光ファイバ数だけの出力を持つスイッチを必要とし、そしてネットワークの通信量が増え続ける現状を踏まえて近い将来は100本を超える光ファイバが光ノードに接続されると見込まれます。しかし、更に出力の多いスイッチの実現には技術的な困難が伴い、実現できてもコストが膨大なものとなってしまいます。我々は解決策として同等の性能を有するものの遙かにコンパクトなハードウェアで実現できる光ノード構成を幾つか提示しています。そのうちの一つでは、波長選択スイッチは出力先の光ファイバを直接選ぶ代わりに、同一方向に向かう信号をグループ化する役割を担当します。そして、波長毎の切替はできないものの、出力数が多くコストや信号劣化でも優れる、別原理による光スイッチと組み合わせ、この光スイッチが信号グループの経路を一括切替します。この発想の転換によって、従来にない大規模な光ノード装置を構成できるようになりました。あるいは、波長選択スイッチに多くの出力数を求めないことで、複数の光ファイバを単一の波長選択スイッチで同時切り替えする光ノード装置も可能となりました。ここはブロックの新たな使い道の発見に似ています。これらノード装置の性能を実証するために、日本・米国・欧州のネットワーク形状をモデルとして、ネットワーク全域を模擬したシミュレーションを行ったり、数千キロメートルに及ぶ光信号伝送実験を実施したりしています。2023年には、プロトタイプを用意し総通信容量が4.71Pbpsに達する光ノードの実現可能性を示しました。このように、光ネットワークに関する研究はブロックによる自由創作に似ていて、ノードはブロックを組み合わせて作るパーツであり、ネットワークはパーツを組み上げて作る創作物に対応します。その過程で、出来合いの市販デバイスに新たな使用方法が見つかったりします。つまりは光ネットワーク構成は発想の自由さが活きる研究領域だと言えるでしょう。さて、以上のご説明はいかがだったでしょうか。もしもご興味をもたれるならば、是非共に、名古屋大学工学部発の、次世代光ネットワークを作り上げましょう!

図1 伝送実験の様子

図1 伝送実験の様子

図2 複数周波数帯域に対応する提案ノード構成

図2 複数周波数帯域に対応する提案ノード構成

図3 伝送実験構成

図3 伝送実験構成

図4 受信側で観測された信号スペクトル

図4 受信側で観測された信号スペクトル

図5 伝送距離の変化に伴う誤り率変動

図5 伝送距離の変化に伴う誤り率変動

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