
複数の人工衛星が相対軌道や相対姿勢を制御しながら協調して飛行する編隊形成や編隊維持といった編隊飛行技術は、単一の衛星では実現できなかった新たなミッションを可能にする技術であり、通信、観測、探査などの様々な分野においてブレイクスルーを生み出すことが期待されています。
衛星の編隊飛行にはサイズやコストの観点から複数基の打ち上げに有利なより小型の衛星が適していますが、衛星が小型になるほど厳しい質量、スペース、電力の制約により、相対軌道や姿勢の制御が困難になります。これは、小さな慣性による宇宙環境からの磁気力や空気力といった影響の増大にも関わらず、小型化によって相対軌道や姿勢の制御に必要な機器の搭載が困難になるためです。この状況を打破するため、小型化に伴い影響が大きくなる衛星外の宇宙環境および衛星内の機器の共用といった新たな関係に着目し、従来の外乱の抑圧・関係の抑制ではなく、有用な現象や関係を新たに見出し積極的に活用することで、人工衛星の従来と異なった相対軌道や姿勢の制御を目指しています。特にこれまで独立に捉えられることが多かった軌道運動と姿勢運動の新たな関連付けに着目しています。小型ほど影響の大きい磁気トルクを従来のように姿勢外乱として低減するのではなく、むしろ角運動量の蓄積に活用し結合した衛星の分離により複数基の衛星を異なる軌道に投入する編隊形成を目指しています。さらに姿勢アクチュエータにより速度方向に対する衛星の正面面積を変更して空気力を調整し軌道制御に用いる編隊維持についても検討しています。軌道運動と姿勢運動を関連付けることで機器の追加の搭載を必要とせずシステムをコンパクト化し、小型の衛星に姿勢・軌道制御能力を付加する新たなアーキテクチャの創出を目指しています。また、従来、姿勢制御で精一杯であった小さな衛星において、推進剤の残量を気にせず長期間にわたって運用でき、質量やスペース、電力をミッション機器に柔軟に割り当て可能といったこのサイズならではの新たなメリットを見出すことを目指しています。
軌道上での技術実証が重要であることから、私達の研究グループでは、国内で先駆けて小型の衛星による編隊飛行技術の宇宙実証を目指し、2022年度には編隊飛行技術実証衛星MAGNARO(MAGnetically separating NAno-satellite with Rotation for Orbit control)を研究開発しました。世界でも珍しい人工衛星の推進剤フリーの編隊飛行に挑戦するもので、2022年度打ち上げとなりましたが、打ち上げロケットの異常により指令破壊措置が取られ残念ながら軌道投入には至りませんでした。現在は次の打ち上げ機会を頂き後継のMAGNARO-Ⅱの研究開発を進めています。実用化には軌道上での実証が不可欠であり、今後の継続的な取り組みが重要と考えています。

図1 編隊飛行技術実証衛星MAGNAROと地上局とのかみ合わせ試験

図2 編隊飛行技術実証衛星MAGNARO(MAGNARO-Tigris, MAGNARO-Piscis)の分離時の様子

図3 LVLH (Local Vertical Local Horizontal)座標系における2基の衛星の相対軌道制御による編隊維持のシミュレーション結果