鉄系超伝導体の特性を活かした
高性能光子検出器開発

物質科学専攻 准教授
畑野 敬史
物質科学専攻 准教授 畑野 敬史

超伝導体の産業応用というと、大電流を抵抗ゼロで流せる特徴を活かし、送電ケーブルや、超伝導リニアに用いられる強力電磁石への応用が注目されますが、超伝導薄膜にナノスケールの微細加工を施すことで、高性能トランジスタや検出器を作製することもできます。私たちはこのような「デバイス応用」の一つとして、光子一個という究極に弱い光を観測可能な検出器(Single Photon Detector:SPD)の研究を進めています。

実はSPD自体はすでに確立された技術です。例えばスーパーカミオカンデの内壁に敷き詰められた光電子増倍管はSPDの一種といえますし、半導体接合素子型のSPDも実用化されています。しかし近年、SPDは量子暗号通信や深宇宙領域の光通信など、多岐にわたる先端技術分野においてキーデバイスと目されるようになり、これに伴い、従来用いられてきたSPDでは、検出効率・ノイズ特性・動作速度などが充分ではなくなっています。こうした背景の中、超伝導ベースのSPDが提案されました[1]。超伝導SPDは、超伝導体薄膜を線幅が100nm程度の非常に細い線状に加工したデバイスで、SNSPD(Superconducting Nanowire Single Photon Detector)と称されます。この細線構造の一部に光子が衝突したとき、局所的に常伝導状態が発生し、これがトリガとなって超伝導が分断され、電圧信号が発生する仕組みです(図1)。このような単純な原理にもかかわらず、従来型SPDをはるかに凌駕する性能を発揮することが分かったのです。しかしながらSNSPDには、2K(約-270℃)という極低温でしか動作しないという弱点が残されています。これはSNSPDに用いられる超伝導体が、超伝導転移温度(Tc)の低い材料であるためです。このため強力な冷凍機に組み込むことが必須となり、運用コストの増大や、実験装置の大型化につながっています。そこで、より高温で動作するSNSPDの開発が求められており、小型の冷凍機で実現可能な40K(約-230℃)以上での動作を達成することが目標の一つです。

これを実現すべく、高いTcを示す高温超伝導体を用いたSNSPD開発が盛んに検討され、例えば銅酸化物超伝導体薄膜や、MgB2薄膜の微細加工が世界中で試みられてきました[2]。しかし、高品質な薄膜作製と微細加工の両立は大変困難で、未だにSNSPDの高温動作は実現していません。そこで私たちは、銅酸化物に続く第二の高温超伝導体物質群である鉄系超伝導体に着目しました。中でもNdFeAsO(Nd1111)は、OサイトをFやHで置換することでTc が50K以上に達することが知られており、40K動作を可能にする有望な材料です。これまで私たちは、本系の薄膜作製と基礎物性の評価に取り組んできましたが、最近になってNd1111が銅酸化物と比べて化学的安定性に優れ、微細加工プロセスに対する耐性を持つことが分かってきました。この長所を活かし、Nd1111:H薄膜に対してナノスケールの微細加工を施す技術を世界に先駆けて確立しました[3]。図2は、NdFeAs(O,H)の薄膜を線幅200nmの極細線に加工したデバイスの表面の様子です。細い線を一本だけ用意しても、ほとんどの光子がすり抜けてしまうため、迷路のように折りたたんで受光面積を稼ぐメアンダ構造にしています。この成果を足掛かりに、40Kで動作するSNSPDの実現を目指し、研究を進めていきます。

[1] Gol’tsman et al., Appl. Phys. Lett. 79, 705 (2001).
[2] e.g. Charaev et al., Nature Commun. 15, 3973 (2024).
[3] Yoshikawa et al., Supercond. Sci. Technol. 37. 085008 (2024).

図1 超伝導細線型単一光子検出器(SNSPD)の動作機構

図1 超伝導細線型単一光子検出器(SNSPD)の動作機構

図2 電子線描画装置を用いて作製したNdFeAsO(O,H) メアンダ構造に対する(a)走査型電子顕微鏡による観察像、および(b)抵抗率の温度依存性

図2 電子線描画装置を用いて作製したNdFeAsO(O,H) メアンダ構造に対する(a)走査型電子顕微鏡による観察像、および(b)抵抗率の温度依存性

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