欠陥機能を活用したエネルギー機能材料の開発

脱炭素社会の実現に向けて、高性能なエネルギー変換・貯蔵技術の開発が必要とされています。こうしたデバイスを構成するエネルギー機能材料では、材料中に存在する「欠陥」が機能発現のカギを握る重要な因子となっています。私たちは材料中の欠陥生成メカニズムを深く理解し、欠陥構造を能動的に制御することで、これまでに無いエネルギー機能材料の開発に取り組んでいます(図1)。
図1 研究コンセプト
基礎学理構築の例 蓄電池正極材料における酸素脱離現象の解明
近年、携帯機器に使用されるバッテリーの発火事故が報告されており、電池の熱暴走抑制は極めて重要な課題になっています。電池の熱暴走は酸化物系の正極材料から脱離した酸素が電解液と反応することが熱暴走の原因となっています。正極の酸素脱離は、酸素空孔生成という欠陥生成と同義であるという点に着目し、欠陥化学に基づいた手法で酸素脱離現象の解明に取り組みました[1, 2]。その結果、高価数な遷移金属(Ni3+など)が存在すると格子酸素が著しく不安定化することを発見しました。こうした知見は、優れた電池特性と高い信頼性を両立する電池材料の創出につながります。
応用技術開発の例 欠陥能動制御技術の開発と材料開発への応用
新材料創製に向けた戦略のひとつとして、陰イオン(アニオン)の機能を活用した材料開発が注目されています。しかし現状、アニオン組成の制御は技術的に難しく、合成できる材料系が限られています。この状況を打破するため、当グループでは、対象材料に狙ったアニオン種を狙った量だけ導入することができる革新的な欠陥制御技術を開発しています。コンセプトの実証として図2に示す電気化学リアクターを試作し、酸化物母材へのアニオン欠陥ドープが可能であることを見出しました[3]。
現在、本技術を活用して蓄電池材料や触媒材料の開発に取り組んでいます。例えば次世代正極として期待されているリチウム過剰系正極材料に適量の酸素空孔を導入すると、充放電を繰り返した際の容量劣化を大幅に改善できることを見出しました(図3)。このメカニズムを明らかにするため詳細な分析を行った結果、駆動イオンが通るボトルネックが酸素空孔導入により拡大し、充放電時の層状構造安定化につながっていることを明らかにしました[4]。この成果は欠陥を能動制御することで材料の機能を高められることを示した重要な実証例であると言えます。
図2 欠陥制御用電気化学リアクター
図3 欠陥制御による機能開発の例
酸素空孔導入により容量劣化を飛躍的に低減
参考文献
[1] X. Hou, K. Ohta, Y. Kimura, Y. Tamenori, K. Tsuruta, K. Amezawa, T.Nakamura, Adv. Energy Mater., 2021, 11, 2101005.
[2] X. Hou, Y. Kimura, Y. Tamenori, K. Nitta, H. Yamagishi, K. Amezawa,T. Nakamura, ACS Energy Letters, 2022, 7, 1687.
[3] T. Katsumata, H. Yamamoto, Y. Kimura, K. Amezawa, R. Aso, S.Kikkawa, S. Yamazoe, T. Nakamura, Adv. Funct. Mater., 2023, 33,2307116.
[4] T. Nakamura, K. Ohta, X. Hou, Y. Kimura, K. Tsuruta, Y. Tamenori, R.Aso, H. Yoshida, K. Amezawa, J. Mater. Chem. A, 2021, 9, 3657.