Odagiri Kimihide 小田切 公秀

航空宇宙工学専攻 博士後期課程3年
  • 1992年生まれ
  • 2016年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2016年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2017年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用

ループヒートパイプ蒸発器内の熱流動現象の解明と高性能化への応用

近年、宇宙機搭載機器は小型化および高性能化によって発熱密度が著しく増加しており、特に惑星探査機や月面着陸機のように過酷な熱環境にさらされるミッションではより高効率な熱輸送デバイスが求められています。そこで私が着目しているのが無電力で長距離・大量熱輸送が可能なループヒートパイプ(Loop Heat Pipe, LHP)です。LHPは蒸発と凝縮を利用して熱を運ぶ毛細管力駆動型の熱輸送デバイスであり、従来技術のヒートパイプと比較して10〜100倍以上の熱輸送性能が期待できます。LHPの性能を決定する最も重要な構成要素は受熱部の蒸発器ですが、数〜数十μmオーダーの空孔径を有する多孔体で生じる気液二相熱流動現象のメカニズムが十分に解明されておらず、長年にわたり研究課題となっていました。そこで、まず赤外・可視領域の双方でマイクロスケールの現象を捉えることで熱流動機構を解明し、さらに明らかにした基礎学理に基づいて高性能蒸発器構造を創出することを目指しています。
私はこれまでにマイクロオーダーの分解能で温度場および気液界面挙動を捉える観察装置を構築し、熱流動を可視化しました(図1)。その結果、蒸発器内部の熱流動には熱流束によって変化する3種の動作モードが存在することを世界に先駆けて明らかにしました(図2)。また3種の動作モードのうち核沸騰と薄液膜蒸発が共存するモードBを維持することで従来と比較し、最大で約6倍熱伝達性能が向上することを明らかにしました。これらの現象は先行研究の数値計算モデルでは説明できない現象であったため、私は各モードについて多孔体液流動と液架橋表面での相変化を考慮した物理モデルを独自に構築し、熱流動メカニズムを説明することに成功しました。
上記の知見に基づいて現在、高性能蒸発器構造の考案・実証に取り組んでいます。具体的には(i)多孔体に加工される蒸気溝幅および本数の最適化、(ii)多孔体と作動流体の濡れ性向上という二つの手法です。これまでに小型の多孔体試料で性能向上を実証することに成功しました。今後はこれらの構造を蒸発器に適用し、LHPシステムレベルでの実証試験を予定しています。最終的にはこれまでの知見を統合し、LHP最適設計理論を確立することを目指しています。LHPは宇宙機熱制御のみならず、パソコンなどの民生機器にも応用され始めています。本研究を通して将来の宇宙ミッション高度化および地球上の高効率エネルギー利用の促進に貢献できるよう邁進いたします。

図1 LHP概観図と本観察装置によって得られた顕微赤外画像および可視画像

図2 蒸発器内の3種の熱流動動作モード、Mode A:三相界線で形成される液架橋表面における蒸発(薄液膜蒸発)、Mode B:蒸発器容器と多孔体の接触面で生じる核沸騰と液架橋表面蒸発が共存する状態、Mode C:液架橋が消失、多孔体内の気液界面における蒸発

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