Terabayashi Ryohei 寺林 稜平
- 1992年生まれ
- 2017年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
- 2017年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
- 2018年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
レーザーで難分析放射性核種を測る~中赤外レーザー分光による放射性炭素分析法の開発~
放射線を放出する放射性物質のうち長い時間をかけてゆっくりと減衰する長半減期核種は、原子力発電所などの核施設の運用・廃止をはじめ様々な領域に分析ニーズが存在します。これらの長半減期核種分析のためには、放射線計測に代わり、質量分析やレーザー分光など原子数を直接計数する手法が有効となります。特にレーザー分光による手法は、対象核種固有のエネルギー準位に相当する波長を持った狭帯域レーザーを用いることで対象核種を選択的に分析することができ、質量分析で問題となる同重体の干渉を受けない分析が可能です。私は特に放射性炭素(14C)を対象とし、中赤外レーザー吸収分光に基づく新規放射性炭素分析システムの開発を行っています。
炭素の天然同位体のうち唯一の放射性同位体である14C(β崩壊核種、最大エネルギー:0.155MeV、半減期:約5730年)は1950年代から約10年にわたって実施された大気圏内核実験によってその濃度が1,000倍程度上昇した特異な同位体でもあります。このような性質を活かし14Cをトレーサーとして利用する研究が環境学・植物動態学・医学など様々な領域でなされています。一方で、トレーサー応用に必要とされる天然同位体比程度までの微量14C分析に適した分析手法が存在せず、加速器を用いた大がかりな質量分析装置を使用しているのが現状です。本研究では既存の分析法に代わる新たな手法として、中赤外キャビティリングダウン吸収分光法に基づく14C分析システム(14C-CRDS、図1)を開発し、天然同位体比程度の高い感度と迅速・簡便・低コストを兼ね備えた14C分析法として、多領域におけるトレーサー応用に適用することを目的としています。
開発を進めている14C-CRDSは試料中炭素を二酸化炭素化する試料導入系、狭帯域で高安定な中赤外レーザーによる光源系、光共振器を伴った分析セル、信号検出・処理系の4つの系から構築され、14Cを含んだ二酸化炭素のスペクトルを測定することで14Cの定量分析が可能です。これまでに14C定量分析を実証し、天然同位体比にあと一桁まで迫る高い感度を実現してきました(図2[1])。
現在は、感度向上を目指して取り組んでいると同時に、医薬品開発メーカーや分析機器メーカー、植物生理学の研究者などと協力し、14C-CRDSを多領域に適用する研究を進めています。今後も一人の研究者として、そしてアイディアを実現するエンジニアとして社会に貢献できるよう、精進していきます。