Kasai Yusuke 笠井 宥佑

工学研究科マイクロ・ナノ機械理工学専攻 博士後期課程2年
  • 1993年生まれ
  • 2017年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2017年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2018年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用

オンチップ細胞分取技術~高い生存率で大きな細胞の高速分取を達成~

近年、膨大な細胞の中から目的の細胞を高速に分取する技術に注目が集まっています。細胞分取技術の応用例として、血液中の循環腫瘍細胞を検出・分取することによる癌の早期診断への応用や、ミドリムシなどの微細藻類の中から脂質を多く含む個体を分取することによるバイオ燃料の高効率産生への応用が期待されています。細胞分取技術の中でも、分取中のサンプル感染の問題が無く、顕微鏡システムとの統合が可能な利点から、マイクロ流体チップを用いたオンチップ細胞分取技術に大きな注目が集まっています。しかし、従来のオンチップ細胞分取技術において、対象とする細胞の大きさと分取速度の間にトレードオフが存在し、大きな細胞を高速に分取するということは困難とされてきました。
そこで本研究では、大きな細胞を高速に分取することを目的として、ガラス膜ポンプを有するオンチップ高速細胞分取装置を開発いたしました。ガラス膜ポンプは、ガラス-Si-ガラスの3層構造の高剛性マイクロ流体チップと、高速・精密駆動が可能な外部ピエゾアクチュエータによって構成されます。ガラス膜ポンプは細胞の流れ方向に直交するように向かい合って2つ設置されており、2つのポンプが同時に押し引きすることによって目的の細胞の流れを回収用流路へとシフトする仕組みになっています。本装置を用いて、ミドリムシとヒト由来の胃がん細胞を対象とした、2種類の分取実験を行いました.特にミドリムシは大きさが約100μmと大きく、従来の細胞分取技術では高速分取が困難な対象です。ビーズと細胞の懸濁液の中から細胞のみを分取する実験を行った結果、ミドリムシの分取実験では最大分取速度:23 kHz、成功率:92.8%、純度:95.8%、生存率:90.8%(分取前の生存率:91.7%)を達成し、胃がん細胞の実験では、最大分取速度:11kHz、成功率:97.8%、純度:98.9%、生存率:90.7%(分取前の生存率:91.4%)を達成しました。以上の結果より、本技術を用いて、従来困難であった大きな細胞を高速かつ高い生存率で分取することに成功いたしました。
今後、細胞分取技術をさらに発展させることによって、細胞解析の加速と、それによる医療・産業分野の発展に貢献することを目指します。

オンチップ細胞分取装置のコンセプト図

図1 オンチップ細胞分取装置のコンセプト図

マイクロ流体チップの構成図と写真

図2 マイクロ流体チップの構成図と写真

細胞分取実験の連続写真

図3 細胞分取実験の連続写真.(a)ミドリムシの分取実験 (b)胃がん細胞の分取実験

未来の研究者一覧に戻る