Goto Keisuke 後藤 啓介
- 1994年生まれ
- 2018年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
- 2018年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
- 2019年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
回転デトネーションエンジンシステムの開発~宙に轟け~
近年、次世代の高熱効率内燃機関として、回転デトネーションエンジン(Rotating Detonation Engine, RDE)に注目が国内外で集まっています。RDEは極超音速で衝撃波を伴い伝播する燃焼波「デトネーション波」を、極めて高い周波数(1~100kHz程度)で環状流路または円筒流路を持つ燃焼器内に発生させて推力を取り出すエンジンです。デトネーション波の伝播により、混合促進・化学反応が短距離で完結し、機械的圧縮無しに予混合気を自立圧縮することが可能となります。RDEをロケットエンジンに応用すれば、化学エネルギーをより完全に利用可能な、小型で高性能な宇宙推進エンジンを実現することができます。しかしながら、RDE推進システムの設計則を実用的なシステムレベルで確立するためには、実際の作動環境である高真空・微小重力下での推力特性の把握と、デトネーション燃焼の高い熱負荷に耐え、長時間作動(数分~数時間以上)を達成する方策が不可欠です。特に、RDEのロケットシステムとしての安定性を示した実験はなく、高性能上段ロケットエンジンとしての実現性を示した前例、知見はこれまで存在しません。
そこで我々の研究グループは、JAXA宇宙科学研究所の保有する観測ロケットS-520-31号機を用いた飛行実験に着目しました。これにより、最大600秒の微小重力環境において、RDE推進システムの軌道上における開始・停止の確認、熱平衡状態、回転トルクといった飛行特性の解明が可能です。
本研究では、実際の宇宙環境に近い状態を模擬した低背圧環境(1kPa以下)でのRDEの推力測定を実施し、その推進性能を決定する主要物理量を明らかにしました。特に、多次元かつ非定常な流れ場を有するRDE内部の状態を時間平均物理量を用いて整理することにより、エンジン形状・運転条件からその推進性能を決定することを可能にしました。この成果により、研究チーム一丸となって構築したデトネーションエンジンシステム(DES)のプリフライトモデル(PFM)(図1)にRDEが搭載可能となり、ノミナル6秒間の地上燃焼試験を達成しました。これにより、観測ロケットS-520-31号機に搭載可能な新たな推進システムを完成させることができました。システムの宇宙飛行実証は来年度2021年に予定されており、成功すればロケットエンジン史上初のデトネーション燃焼による宇宙推進となります。
さらに、デトネーション推進システムのさらなる発展に向け、今は長時間作動を可能とする革新的な冷却機構を有する「推進剤噴射冷却単円筒RDE(図2)」の研究にも取り組んでいます。これは、最も熱負荷の高いデトネーション燃焼領域近傍に推進剤充填用のインジェクタを配置することで、推進剤を充填しながら壁面を冷却するものです。本研究では4秒間の燃焼試験にて、上述の冷却効果がエンジンの定常作動を達成しうる能力を持つことを確認しました。