Okamoto Kazuki 岡本 一輝

工学研究科 エネルギー理工学専攻 博士後期課程2年
  • 1993年生まれ
  • 2019年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2019年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2019年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)採用
岡本 一輝

ナノ構造化による新たな圧電メカニズムの創製

IoT(モノのインターネット)と呼ばれる様々なセンサ等がインターネットを介してつながることによって人々の生活をより快適で安全なものへと変化していこうという流れがあります。このようなIoTにおいて、電気的な信号を物理的な振動などへ、逆に振動を電気信号へ変換することが出来る圧電性を有する材料はセンサとして利用される材料の一つです。また、そうしたデバイスの小型・高性能化にはより小型な圧電性を持つ素子が求められています。しかし、これらの素子においてはサイズ効果が存在し、サイズの減少に伴い圧電特性が多くの場合低下してしまう課題があります。ナノスケールサイズの圧電材料でも、その形状・大きさをうまく制御することで、サイズ効果を受けていないバルク材料と同等の特性を発現させられる可能性があります。

私達の研究では、まず代表的な圧電性を持つ材料として知られるチタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZT)を高い酸素分圧下で堆積させることにより、細い棒(ナノロッド)状に自己組織化成長ができることを見出しました[1]。ここで用いた試料作製法のパルスレーザー堆積法は物理気相蒸着法の一つであり、組成転写性が高い薄膜の作製方法として知られています。この研究では作製条件の一つである成膜雰囲気を一般的な圧力(数10~数100mTorr)より高い圧力(2000mTorr)とすることで非等方的な成長を促進させ、PZTナノロッドを作製することに成功しました(図1)。

このように作製されたPZTをナノロッドはサイズ効果による圧電特性の低下の影響が小さくなり、バルク材料に近い値を示すことが明らかになりました[2]。この圧電特性の評価は高輝度放射光施設SPring-8のX線を用いたX線回折測定により、PZTナノロッドに電界を印加した時の格子定数の変化から明らかにしました。サイズ効果を受ける薄膜とそうでないバルク結晶の値と比較すると、バルク結晶に近い値を示しています。以上の研究を通じて、私達は、PZTナノロッドはサイズ効果を受けていないバルク材料と同程度の特性を示すことを実証しました。

現在は、以上の研究で得た知見を活かし、バルク材料以上の特性を持つナノ構造材料の開発を目指して取り組んでいます。また、このような材料研究に従事する者の一人として、社会に貢献できるよう邁進していきます。

[1]K. Okamoto, T. Yamada, J. Yasumoto, K. Nakamura, M. Yoshino, and T. Nagasaki, Influence of deposition conditions on self-assembled growth of Pb(Zr,Ti)O3 nanorods by pulsed laser deposition at elevated oxygen pressure. J. Ceram. Soc. Jpn 126, 276–280 (2018).
[2]K. Okamoto, T. Yamada, K. Nakamura, H. Tanaka, O. Sakata, M. Phillips, T. Kiguchi, M. Yoshino, H. Funakubo, and T. Nagasaki, Enhanced intrinsic piezoelectric response in (001)-epitaxial single c-domain Pb(Zr,Ti)O3 nanorods. Appl. Phys. Lett. 117, 042905 (2020).

図1 回転デトネーションエンジンシステム(DES)地上燃焼試験の様子

図1 パルスレーザー堆積法で作製したPZTの電子顕微鏡観察像[1]。
(a) 200 mTorr, (b) 2000 mTorrの酸素分圧下で作製。

図2 推進剤噴射冷却単円筒RDE概念図

図2 電界下での放射光XRDによるPZTの歪み依存性のプロット[2]。(001)配向PZTのバルク結晶、薄膜、ナノロッドの電界に対する歪み依存性をそれぞれ黒の実線、黒の点線、赤の点線で示す。ナノロッドの各電界下でのXRDパターンを図中にインセットとして示す。

未来の研究者一覧に戻る