Ohmura Shuhei 大村 修平

工学研究科 有機・高分子化学専攻 博士後期課程3年
  • 1991年生まれ
  • 2018年3月 名古屋大学工学研究科 博士課程(前期課程)修了
  • 2018年4月 名古屋大学工学研究科 博士課程(後期課程)進学
  • 2020年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用

「鉄」の特性を活かした環境に優しい触媒的有機反応の開拓

資源問題や環境問題への関心が高まるなか、有機合成化学の分野では、持続可能な社会の実現へ向けた環境調和型の有機反応の開発に注目が集まっています。私は、地球上に豊富に存在する安全で安価な「鉄」の特性を活かした触媒的有機反応の開発に取り組んでいます。

これまでに、三価の鉄塩を触媒量の一電子酸化剤として用いるラジカルカチオン反応の開発を行ってきました。例えば、電子豊富な芳香族化合物の一電子酸化を鍵とするラジカルカチオン[4+2]環化反応は、多くの医薬品や天然物に含まれるシクロヘキセン類合成の新たな手法として、近年勢力的に開発が行われている有機反応です。当時、ルテニウムやクロムなどの比較的希少な金属から成る有機金属錯体を光レドックス触媒として用いる手法が主流であったのに対し、私たちは高活性な三価の鉄塩を触媒量の酸化的開始剤として用いることで、従来法を凌駕する幅位広い基質適用範囲を有するラジカルカチオン[4+2]環化反応の開発に成功しました(図1a)。さらに、得られたシクロヘキセン類を化学変換することで、抗酸化剤としての薬効が期待される生物活性天然物Heitziamide Aの形式全合成を達成しました。また、ラジカルカチオン中間体の単離およびX線構造解析にも挑戦し、これまで未解明であったラジカルカチオン中間体の構造を明らかにしました (図1b)。本反応は100gスケール合成にも適用可能であり、わずか1 mol%の塩化鉄(III)の存在下、アネトールと2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのラジカルカチオン[4+2]環化反応が円滑に進行します(図2)。高度なシュレンクテクニックを必要としない点や、反応後の溶液を少量のシリカゲルに通して塩化鉄(III)を取り除くのみで高純度な生成物が得られる点は、本反応を工業スケールで利用する際の大きなメリットになります。

今後も「鉄」の特性を活かした新しい触媒的有機反応の開発に挑戦し、医薬品や生物活性物質の新規合成法開拓を行っていきたいと思います。世界中で起こる問題に対して有機合成化学の力で画期的な解決策を導き出せる研究者を目指しています。

図1 触媒量の三価の鉄塩を用いるラジカルカチオン[4+2]環化反応

図1 触媒量の三価の鉄塩を用いるラジカルカチオン[4+2]環化反応

図2 100gスケール合成

図2 100gスケール合成

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