Ishikawa Akihisa石川 諒尚

工学研究科 総合エネルギー工学専攻 博士後期課程3年
  • 1996年生まれ
  • 2020年3月 名古屋大学大学院工学研究科 博士前期課程修了
  • 2020年4月 名古屋大学大学院工学研究科 博士後期課程進学
  • 2020年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)採用
石川 諒尚

高強度中性子場用リアルタイム中性子モニタの開発

中性子線は物質科学や国土安全保障、医療分野にわたるさまざまな領域で利用されています。中性子線を用いたがん治療法であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、悪性膠芽腫などの手術困難・放射線抵抗性の難治性がんに対しても高い治療効果を示す、今日、我が国で世界に先駆けた研究が行われている分野の一つです。我々のグループでは、BNCTの普及拡大に向けたさまざまな研究を進めています。その中で私は、高強度中性子場において使用可能なリアルタイム中性子モニタの開発に取り組んでいます。

従来、中性子計測には197Auの放射化法が用いられてきましたが、この方法は熱中性子束の絶対測定を行うことができる利点がある一方、オフライン測定であることや準備・工程が煩雑であること、放射化物の管理が必要となることなどの欠点がありました。そこで、中性子シンチレータと光ファイバを組み合わせて、高強度中性子場で使用可能な光ファイバ型中性子検出器を開発しました。中性子シンチレータは、入射した中性子を核反応により検出可能な荷電粒子に変換し、その荷電粒子のエネルギー付与により発光する物質です。開発した検出器では、このシンチレータを粒径数百μmの小片として光ファイバの先端に取り付けることで、シンチレータの発光を光ファイバにより伝送し中性子の検出を行います。また、シンチレータを小片化することで、中性子場に混在するγ線によるノイズを低減することができます。これまでに、開発した検出器の諸特性評価[1-3]のほか、BNCT用中性子源の品質管理を想定した水ファントム内中性子計測実験[4、5]を行いました。これらの実験の結果、開発した検出器は制御可能な熱中性子感度や広いダイナミックレンジ、高い放射線耐性、高いn-γ弁別性をもつことがわかりました(図1)。また、開発した検出器を用いた水ファントム内中性子計測では、水ファントムに中性子線を照射しながら検出器を水中で走査することで、測定の自動化と高い空間分解能を実現することができました(図2)。

現在は、検出器開発の研究に加え、重粒子線治療における低二次がんリスクの解明に向けた遡及的線量評価研究[6]やBNCT用簡易線量計算コードの開発[7]、それを用いたBNCT用中性子ビーム線質の最適化に向けたパラメータサーベイに携わっています。今後も研究を通じて社会が抱えるさまざまな課題を解決することができるように精進していきます。

[1] A. Ishikawa et al., Nucl. Inst. and Meth. in Phys. Res. A, 954 (2020) 161661.
[2] A. Ishikawa et al., Sensors and Materials, 32 (2020) pp. 1489−1495.
[3] A. Ishikawa et al., Nucl. Inst. and Meth. in Phys. Res. A, 1025 (2022) 166074.
[4] A. Ishikawa et al., Radiation Measurements, 133 (2020) 106270.
[5] K. Watanabe et al., Appl. Radiation and Isotopes, 168 (2021) 109553.
[6] T. Furuta et al., Phys. Med. Biol., 67 (2022) 145002.
[7] A. Ishikawa et al., Japanese Journal of Applied Physics, 61 (2022) 076503.

図1 中性子シンチレータとしてLi-glassを用いて開発した検出器の a)熱中性子感度校正結果、 b)計数率特性、 c)長時間照射による放射線耐性評価結果、d)γ線線量率に対するノイズ計数率の推移

図1 中性子シンチレータとしてLi-glassを用いて開発した検出器の a)熱中性子感度校正結果、 b)計数率特性、 c)長時間照射による放射線耐性評価結果、d)γ線線量率に対するノイズ計数率の推移

図2 開発した検出器を用いた水ファントム内中性子計測実験における a)リモート測定のセットアップ模式図、 b)深部方向プロファイル測定結果

図2 開発した検出器を用いた水ファントム内中性子計測実験における a)リモート測定のセットアップ模式図、 b)深部方向プロファイル測定結果

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