Matsuoka Yusuke松岡 佑亮

工学研究科 材料デザイン工学専攻 博士後期課程3年
  • 1996年生まれ
  • 2021年3月 名古屋大学工学研究科 博士前期課程修了
  • 2021年4月 名古屋大学工学研究科 博士後期課程進学
  • 2023年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)採用
松岡 佑亮

高成形性 ―希薄マグネシウム合金の開発と成形性改善メカニズムの解明

マグネシウム(Mg)合金はその軽量性を活かし、ノートパソコンの筐体や自転車の車体など、軽量性が必要とされる用途に利用されています。そんなMg合金ですが、未だアルミニウム合金などの既存の材料を広い範囲で置き換えるには至っていません。この理由の一つに、Mg合金板材の成形性が低く、プレス成形によって複雑な形状に加工することが難しいという点が挙げられます。これは、Mgの有する六方最密充填構造という結晶構造(図1(a))に起因して結晶単位で変形しづらい方向が存在すること、および、板材を作製する際に結晶が同じ方向を向いてしまう性質(図1(b))に起因するものです。この問題に関しては、これまでに様々な研究が行われており、Mgへの亜鉛(Zn)とカルシウム(Ca)の添加などが成形性の改善に有効であることが明らかになっています。成形性がMg合金にとって重要な特性である一方、Mg合金はその利用用途から、電子機器の放熱性に影響する熱伝導性、乗り物の振動特性に影響する制振性も重要な特性として捉えられています。しかし、一般的にこれらの特性は合金添加元素の添加量を増すほどに低下する傾向にあり、高い熱伝導性や制振性を達成するには合金元素の添加量をできるだけ抑える事が重要です。

私は産業技術総合研究所との共同研究により、Mg-Zn-Ca系合金に関して、ZnとCaの添加量が少ない希薄域での成形性について調査を行いました。図2は金属板材の成形性を示す指標であるエリクセン値をMg-xZn-0.1Ca合金のZn添加量を変化させて測定した結果です。この結果から、Znの添加量が0.2wt.%から0.3wt.%の間で成形性が大きく向上し、Mg-xZn-0.1Ca合金はZnの添加量を0.3wt.%という低い値に抑えても高い成形性を維持できることが明らかとなりました。また、この結果と材料の変形のシミュレーションの結果を併せて解析し、Zn添加量0.2wt.%から0.3wt.%への成形性の大きな改善は、主に結晶方位のランダム化(図1(c))によるものであることを明らかにしました。

現在は、未だに明らかとなっていない合金元素添加によるMg合金の結晶配向ランダム化のメカニズムに関して、計算を主としたアプローチで解明を試みています。今後も研究を通じて社会に貢献できるよう、精進していく所存です。

図1  六方最密充填構造(a)、Mg板材の結晶配向(b)およびZn、Ca添加によるMg合金板材の結晶方位のランダム化(c)の模式図

図1 六方最密充填構造(a)、Mg板材の結晶配向(b)およびZn、Ca添加によるMg合金板材の結晶方位のランダム化(c)の模式図

図2 Mg-xZn-0.1Ca(wt.%)合金板材の室温成形性と亜鉛添加量の関係

図2 Mg-xZn-0.1Ca(wt.%)合金板材の室温成形性と亜鉛添加量の関係

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