DNAを使ってナノ粒子の超格子構造を思い通りに制御する

未来材料・システム研究所 准教授
田川 美穂

 生体のタンパク質合成やファージの自己組織化、分子モーター等はボトムアップナノテクノロジーの良い見本です。生体では、一つ一つの分子が‘コード化’され、‘分子認識’されることで精密に高度な機能をもったユニットへと組み上がって行きます。我々の研究グループでは、この生体が持つ高度なボトムアップ技術を材料工学に応用し、他の方法では作製できないような新奇材料創製やナノ構造形成プロセスの開発に繋がる研究を行っています。

1.DNAガイドのナノ粒子結晶化

 ナノ粒子はタンパク分子と同程度の大きさですが、タンパク分子のように自己集合・自己組織化的に秩序構造を形成することはできません。それは、無機材料であるナノ粒子が分子認識する能力を持ち合わせていないからです。我々は、選択的認識・結合能力を持つ‘DNA’をナノ粒子に結合してナノ粒子を‘コード化’することにより、ナノ粒子同士が互いに分子認識して自己集合的に秩序構造を形成するような仕組みを創っています(図1a)。 DNAの塩基配列を変えることにより、DNA修飾ナノ粒子(DNA-NP)間の相互作用と選択的結合を変化させることができ、それにより様々なナノ粒子の超格子構造を作製することができます(図1b)。我々は最近、この方法でナノ粒子の単結晶を作製し、更にそれを乾燥・収縮させても結晶構造が壊れない方法を確立しました(図1c)。

2.基板担持脂質二重膜(SLB)を用いたDNAガイドのナノ粒子二次元結晶化

 結晶成長における二次元結晶化のプロセス(原子の結晶面への吸着、二次元拡散、核形成)を模倣し、面内流動性を持つSLBを結晶化基板に用いたDNA-NPの二次元結晶化法を考案し(図2a)、実際に成功しました。更に、DNAの配列や長さ、溶液のイオン濃度調整により粒子間相互作用を制御して三角格子構造と正方格子構造を制御することにも成功しました(図2b)。カチオン性脂質 Dimethyldioctadecylammonium bromide (DDAB)から成るSLBを用いると、ドメイン状に出現する指組ゲル相(LβI)上でのみDNA-NPの結晶化が起こることを発見したため、将来的にはこのLβI相の出現位置と大きさを制御することにより二次元結晶の形状や大きさを制御することを考えています。
 光学的、触媒的、電気的に特異な性質をもつナノ粒子は、さらにそれらが超格子構造を形成すると、バルク材料には無い新奇な物理現象を発現します。例えば、ナノ粒子の周期構造化により屈折率の周期構造が光に対するポテンシャルとなりバンド構造を形成するプラズモンバンド、ナノ周期構造によるフォノン輸送制御(集熱・放熱の方向制御)等が挙げられます。我々の技術により様々な素材のナノ粒子を設計通りに超格子構造化し、これらの物性解明と応用を実現したいと考えています。また将来的には、超格子構造内を移動する電子によるコンピューティング(ニューロン的情報処理、脳型コンピュータ)の実現にも繋げたいと考えています。

[1] T. Isogai, S. Nakada, N. Yoshida, H. Sumi, R. Tero, S. Harada, T. Ujihara, M. Tagawa, Journal of Crystal Growth 468, 88-92, 2017.
[2] W. Liu, M. Tagawa, H. Xin, T. Wang, H. Emamy, H. Li, K. G. Yager, F. W. Starr, A. V. Tkachenko, O. Gang, Science 351, 6273, 582-586, 2016.
[3] T. Isogai, E. Akada, S. Nakada, N. Yoshida, R. Tero, S. Harada, T. Ujihara, M. Tagawa, Jpn. J. Appl. Phys. 55, 03DF11, 2016.
[4] T. Isogai, A. Piednoir, E. Akada, Y. Akahoshi, R. Tero, S. Harada, T. Ujihara, M. Tagawa, J. Cryst. Growth 401, 494-498, 2014.

図1 (a)DNA 修飾ナノ粒子(DNA-NP)がDNAの選択的結合により結合する様子 (b)DNA塩基配列設計によるナノ粒子結晶構造の制御の例 (c)DNAガイドのナノ粒子結晶化によるナノ粒子のBCC構造

図2 (a)DNA修飾ナノ粒子(DNA-NP)の二次元結晶化(b)イオン濃度調整、DNA長制御による二次元結晶構造変化(スケールバー: 50 nm)

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