爆轟波をより身近なものに、そして宇宙へ
爆轟波(ばくごうは)とは、燃料と酸化剤が予め混合された爆発性ガス中を秒速2000~3000メートルで伝播する最も激しい燃焼形態で、デトネーション波とも呼ばれています。例えば、1気圧27℃のエチレン-酸素量論混合気での断熱火炎温度が約2900℃なのに対して、爆轟波では約3200℃になります。この爆轟波を内燃機関の燃焼に用いれば、既存の発電・航空宇宙推進用エンジンの定圧・定積燃焼サイクルと比較して最も高い理論熱効率を実現できます。また、爆轟波は自らで爆発性ガスの圧縮(衝撃波断熱圧縮)を行うため、初期圧力に対して約5~10倍の高圧ガスを小型燃焼器で瞬時に生成することが可能です。高周波での衝撃波やジェットの生成は、小型衛星の高精度姿勢制御など新たな価値の創造につながると考えています。このように、工学的潜在能力が高い爆轟波ですが、溶射装置など限られた分野での実用化に留まっているのが現状です。
我々は、この爆轟波を誰でも安全かつ容易に利用できる爆轟波生成技術の確立と新たな価値の創造を目指し、基礎研究、技術開発およびシステム開発に取り組んでいます。基礎研究では、レーザー点火技術を用いた爆轟波の生成手法に関する実験を実施しています。従来の自動車用スパークプラグによる火花点火では、爆発性ガスの着火から爆轟波に遷移するまでに有限の時間・距離が必要で、この過程を最短化することが重要です。レーザー点火はナノ秒オーダーの短い時間に多点の狭空間に高エネルギーを注入することが出来ます。現在、遷移過程短縮に対するレーザー点火の有効性を確かめる可視化実験を進めています。
技術開発では、爆轟波を安定して維持する手法の提案とその実証に取り組んでします。筒状燃焼器中で爆轟波を間欠的に生成する手法では、既燃ガス掃気過程を排除した新しい手法を提案しました(図1a)。これまでに、従来手法と比べて1桁高い2000回/秒の爆轟波生成速度を実証しており[1]、本技術の高度化によって超音波領域である20000回/秒程度の超高周波爆轟波生成も可能であると考えています。また、新たに扇形薄型燃焼器(図1b)の左右壁面で反射を繰り返す手法を提案しました。これまでに、実験的にその現象を確認しており[2](図1c)、複雑な現象の解明および各種性能評価に取り組んでいます。
システム実証では、主に宇宙推進機への応用を目指した研究を実施しています。間欠爆轟型では、2013年に垂直飛行試験を実施し、既存スラスタと同程度の推重比(推力/エンジン重量)が獲得できることを示しました[3]。また、ロケット機軸のロール制御用スラスタの開発(図2a)、真空下での作動実証[4]を行ってきました。近年では、新しい回転爆轟型ロケットシステムの滑走試験(図2b)、長秒時作動試験(図2c)にも取り組んでいます。
以上の通り、推進エンジンをはじめ様々な分野での実用化を目指した、爆轟波生成手法に関する研究開発を行っています。今後も、爆轟波がより身近なものとして認知・利用してもらえるよう、基礎研究からシステム実証まで着実に実施していきたいと考えています。
[2] M. Yamaguchi, K. Matsuoka, A. Kawasaki, J. Kasahara, H. Watanabe, A. Matsuo, Supersonic Combustion Inducedby Reflective Shuttling Shock Wave in Fan-Shaped Two-Dimensional Combustor, Proceedings of the Combustion Institute.
[3] K. Matsuoka, T. Morozumi, S. Takagi, J. Kasahara, A. Matsuo, and I. Funaki, Flight Validation of a Rotary-Valved Four-Cylinder Pulse Detonation Rocket, Journal of Propulsion and Power, Vol. 32, No. 2, pp. 383-391, 2016.
[4] K. Matsuoka, S. Takagi, J. Kasahara, A. Matsuo, and I. Funaki, Validation of Pulse Detonation Operation in Low-Ambient-Pressure Environment, Journal of Propulsion and Power, Vol. 34, No. 1, pp. 116-124, 2018.