デマンドレスポンスの実施診断

機械システム工学専攻 教授
東 俊一

環境意識の高まりを背景に、太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーの大量導入に向けた取り組みが世界各国でなされています。わが国でも、2030年には総発電量の20%以上を再生可能エネルギーから得ることを目標としています(第5次エネルギー基本計画)。この一方で、再生可能エネルギーが大量導入されると気象条件による供給の不確実性が増大します。そのため、電力供給が不足したときに、それを補うための電源の役割がこれまで以上に大きくなります。そのような電源は調整力と呼ばれます。

従来、調整力の主役は速応性のよい発電機でしたが、近年は需要側からの調整力として、「デマンドレスポンス」に大きな期待が集められています。デマンドレスポンスとは、図1に示すようにアグリゲーターと呼ばれる事業者が多数の需要家(参加者)を束ね、報酬と引き換えに節電を得るしくみのことです。デマンドレスポンスはすでに実用段階に入りつつあり、商用化されているサービスもありますが、さまざまな課題も残されており、現在、世界中で研究が実施されています。

我々の研究グループでは、電力の専門家とともに、参加者の診断技術からデマンドレスポンスへの貢献を目指しています。デマンドレスポンスを調整力に用いるためには、各参加者があらかじめ定められた量の節電を確実に行うことが重要になりますが、現実には、機器故障や蓄電池の充電不足などの障害により、所定量の節電ができない参加者が出現してしまいます。もし、そのような参加者が現れた場合、アグリゲーターはその参加者をいち早く探し出し是正することが必要になります。これを行うための最も単純な方法は、異常が検出された瞬間に、参加者全員のスマートメーターを同時に検針することですが、デマンドレスポンスでは参加者の数が膨大であるため、通信量の観点からそれは困難です。また、技術的に可能であったとしても、参加者がアグリゲーターから常時監視されているように感じるデマンドレスポンスは、社会的受容性の観点から望まれません。そこで、ごく限られた情報から、削減未達の参加者を高速かつ正確に検出する技術が必要となります。

そこで我々は、所定量の節電をしない参加者はごく少数、つまりスパース(まばら)となる点に着目し、スパース再構成と呼ばれるデータサイエンスの手法を応用したアルゴリズムを開発しています。これを用いれば、ごく少数の参加者を検針するだけで、図2のように100%正確に、削減未達の参加者を検出することができます。現在、この技術の実用化に向けて、さらなる研究を実施しています。

[1] S. Azuma, D. Sato, K. Kobayashi, and N. Yamaguchi: Detection of Defaulting Participants of Demand Response Based on Sparse Reconstruction, IEEE Transactions on Smart Grid, DOI: 10.1109/TSG.2019.2922435 (2019) 
図1

図1 デマンドレスポンスのイメージ
アグリゲーターが多数の需要家(参加者)を束ね、報酬と引き換えに節電を得るしくみ。

図2

図2 スパース再構成を応用したアルゴリズムで実施診断を行った例
1000件の参加者のうち、参加者100、200、…、1000が削減未達となっているが(上図)、それを著者らが開発したアルゴリズムで推定を行うと正確に推定ができる(下図)。

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