ナノテク新素材の至高の目標 ―グラフェンの従兄弟「プランベン」の発見に成功!―

エネルギー理工学専攻 准教授
柚原 淳司

単原子層材料としてよく知られているグラフェンは、電気伝導性が高く、曲げなどに対して頑丈といった特徴がありますが、電気伝導性の制御が困難でした。電気伝導性の制御を可能にするため、グラフェンの結晶構造を維持したままグラフェンを構成している炭素元素を同族元素のシリコン、ゲルマニウム、スズ、鉛で置き換えたハチの巣格子状の二次元物質(以下、ポストグラフェン物質)は、大きな関心を集めています(図1)。このポストグラフェン物質は、重い元素ほどスピン軌道相互作用の増大によりバンドギャップが大きくなり、また、有望なトポロジカル絶縁体であるとの理論予測もあり、省エネルギーデバイスとして注目されているスピントロニクスやナノエレクトロニクスに寄与していくことが期待されています。

2012年から2015年にかけて、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、スタネン(Sn)の創製に関して、国内外で次々と報告がありました。当時、我々の研究グループは、二次元合金や酸化物準結晶の創製研究に取り組んでいました。2015年にフランスで開催された国際会議にて、ポストグラフェン創製研究の世界的第一人者のギー・ルレイ先生(エクス=マルセイユ大学)から平面スタネンの創製について共同研究が提案されました。先行研究では、素材表面そのものを用いて、二次元物質の創製を試みるやり方が主流でしたが、我々は表面第一層のみを合金化するという新しいアイデアで平面スタネンの創製に成功しました。表面状態を改質するというアイデアは、二次元物質を創製するにあたり、今後も重要なテクニックの一つになると思われます。その後、学内プロジェクトである若手新分野創成研究ユニット(黒澤講師、大田特任助教、洗平助教)が発見したゲルマニウム界面偏析現象を応用し、ユニット+1の共同研究体制で、表面偏析現象を利用した大面積ゲルマネンの創製技術を確立することに成功しました。

一方、周期律表において同族で最も重い元素である鉛元素で作るプランベンの創製方法を開発することは、至高の目標(HolyGrail)とされ、世界中で開発研究が行われてきました。当初我々も大変苦戦しましたが、合金化や表面偏析といった我々の強みを生かすことで、この問題を解決しました。試料は、Pd(111)単結晶基板上に鉛を蒸着後に加熱をしたPd-Pb合金表面を用いました。試料の加熱および冷却の過程で、鉛が表面に1層だけ偏析する条件を見出しました(図2)。原子分解能を有する走査型トンネル顕微鏡(STM)にて、原子一つ一つがハチの巣格子状構造を形成していることが判明しました。あいちシンクロトロン光センターにて表面組成や化学結合状態を明らかにし、プランベンが創製できていることを確認しました。今後の課題としては、創製したプランベンの物性を調べることであり、半導体表面への転写技術や半導体表面上での創製技術の確立が急務の課題となっています。

今回の実験では、プランベンの発見とともに、Pd-Pb合金薄膜がナノスケールのバブル構造を形成していることを偶然発見しました(図3)。材料表面科学の約50年間の歴史において初めて発見された大変ユニークな結晶構造です。グラフェンの兄弟であるフラーレンは、1967年モントリオール万博のフラードームに似ていることから名付けられました。今回発見されたナノバブル構造は、2008年北京五輪の競泳施設(通称、ウォーターキューブ)の外観に似ていることから、「ナノウォーターキューブ」と命名しました。ナノウォーターキューブ表面は、通常の結晶表面とは異なり、ゆるやかなナノスケール凹凸構造があることがSTM像から判明しています。ナノウォーターキューブと下地パラジウム単結晶の界面は、格子歪みがあるはずです。ナノバブル間の界面においても特徴的な電子状態があることもわかっています。これら欠陥構造は、パラジウム触媒の機能向上に期待できるのではないかと考えています。

[1] J. Yuhara, Bangjie He, N. Matsunami, M. Nakatake, G. Le Lay, Adv. Mater. 31, 1901017 (2019)
[2] J. Yuhara, H. Shimazu, K. Ito, A. Ohta, M. Araidai, M. Kurosawa, M. Nakatake, G. Le Lay, ACS Nano 12, 11632 (2018)
[3] J. Yuhara, Y. Fujii, K. Nishino, N. Isobe, M. Nakatake, L. Xian, A. Rubio, G. Le Lay, 2D Mater. 5, 025002 (2018)
[4] J. Yuhara, M. Schmid, and P. Varga, Phys. Rev. B 67, 195407 (2003)
図1

図1 グラフェン及びポストグラフェンの年度別論文掲載数

図2 (a)プランベンの創製方法(b)プランベンの原子分解能STM像

図3 (a) ナノウォーターキューブ (b)ウォーターキューブ

図3 (a)ナノウォーターキューブ(b)ウォーターキューブ

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