再生医療において、完全な組織・臓器再生が困難な疾患に対し、iPS細胞、体性幹細胞、これら幹細胞から得られた再生細胞やオルガノイド(試験管内作製ミニ臓器)を移植する細胞移植治療が重要な役割を果たしています。そして、最近では幹細胞や再生細胞から産生されるエクソソームにも再生治療効果が認められ、注目が集まっています。ただし、再生医療の発展・実用化に向けては、安全性を確保し、且つ治療効果を最大限に引き出すことが極めて重要になります。そのため、移植する幹細胞、再生細胞、オルガノイド、及びエクソソームの患部への生着のみならず、患部以外の組織や臓器への集積についても単一細胞レベルで正確に把握することが強く求められています。しかし、既に実用化されているイメージング診断技術、例えば、超音波、X線CT、MRI、PETなどでは、細胞レベルの高感度検出は極めて難しく、更に、生体内に移植された全ての幹細胞、再生細胞、オルガノイドなどを単一細胞レベルで網羅的にイメージング診断できる技術は、小動物(マウスなど)に対してさえも確立されていないのが現状でした。

私は、そのような課題を解決するために、量子ナノ光学に基づく優れた発光特性(超高輝度、超耐光性、超安定性、近赤外発光、低コスト)を実現する量子ドット(Quantum Dots:QDs)に注目し、再生医療における幹細胞・再生細胞イメージングに取り組んできました。具体的には、「生体の窓」と称される、生体透過性が高い近赤外(NIR:約700~1,500nm)領域に強い蛍光を示す量子ドットを用いて[1,2]、これまでに幹細胞の高効率標識技術の構築(図1)、幹細胞への安全性評価、及び、移植幹細胞 in vivo 蛍光イメージング(図2)などを実現し、生体内の幹細胞、再生細胞を「観る」技術の開発に成功しています[3]。また、医学研究に取り組む多くの先生方からの要望に応えるため、カドミウム(Cd)を含まず、低コストで合成可能な産業化も期待できる超低毒性量子ドットを新たに開発し、産学連携を通して、超低毒性量子ドットの製品化(商品名:FluclairTM(湯川命名)、販売:富士フィルム和光純薬(株)、製造:(株)村田製作所)にも成功しています。

そして、単に生体内の細胞イメージング「観る」から、標題に記したように細胞イメージング診断「診る」ことができるように、光検出磁気共鳴(ODMR)特性を有する量子センサーとして知られる蛍光ナノダイヤモンドNVC(窒素-空孔中心:Nitrogen-Vacancy Center)を利用した診断技術の構築にも取り組んでいます。幹細胞の温度を計測できるシステムの開発により、幹細胞温度が再生機能発現に大きく影響することが確認され、再生医療の最適化に向けた重要な知見となっています(図3)[4]。

更に、最近では、他の生命科学領域にも応用範囲を広げています。例えば、がん領域においては「診る」の枠を超え、治療ができる「診て治す」機能を付与することにも挑戦しています。具体的には、量子センサーにNIR領域光を用いたがん治療方法として非常に注目されているがん光免疫療法(Photoimmunotherapy:PIT)を導入して融合した、量子ナノがん光免疫療法(QPIT)の開発に取り組んでいます。これらの技術は、医学・薬学領域における新規生体イメージング診断治療技術として、再生医療・がん研究を含む最先端医学研究領域において非常に注目頂いています。今後も量子技術を活用した医学・薬学研究の進展・発展に貢献していきたいと考えています。

[1] Yukawa H., Baba Y. In vivo fluorescence imaging and the diagnosis of stem cells using quantum dots for regenerative medicine. Anal. Chem., 2017, 89, 2671-2681.
[2] Kameyama T., Yamauchi H., Yamamoto H., Mizumaki T.,Yukawa H., Yamamoto M., Ikeda S., Uematsu T., Baba Y.,Kuwabata S., Torimoto T. Tailored photoluminescence properties of Ag(In,Ga)Se2 quantum dots for near-infrared in vivo imaging. ACS Appl. Nano Mater., 2020, 3(4),3275-3287. (Front Cover)
[3] †Toda M., †Yukawa H., Yamada J., Ueno M., Kinoshita S.,Baba Y., Hamuro J. In Vivo FluorescenceVisualization of Anterior Chamber Injected Human Corneal Endothelial Cells Labeled with Quantum Dots. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.,2019, 60(12), 4008-4020. †Both authors contributed equally to this work and were corresponding authors.
[4] Yukawa H., Fujiwara M., Kobayashi K., Miyaji K., Kumon Y.,Nishimura Y., Oshimi K., Umehara Y., Teki Y., Iwasaki T.,Hatano M., Hashimoto H., Baba Y. Quantum thermometric sensing and analysis system using fluorescent nanodiamonds for the evaluation of the living stem cell function according to intracellular temperature, Nanoscale Adv., 2020, 2,1859-1868. (Inside Front Cover)

図1 量子ドット(QDs)にて標識されたiPS細胞(左)と脂肪組織由来幹細胞(ASCs)(右)の蛍光画像

図1 量子ドット(QDs)にて標識されたiPS細胞(左)と脂肪組織由来幹細胞(ASCs)(右)の蛍光画像

図2 量子ドット(QDs)標識幹細胞を移植されたマウス3D蛍光・CTイメージング画像

図2 量子ドット(QDs)標識幹細胞を移植されたマウス3D蛍光・CTイメージング画像

図3 蛍光ナノダイヤモンドNVC(FNDs)による幹細胞温度計測システムの概要図と写真

図3 蛍光ナノダイヤモンドNVC(FNDs)による幹細胞温度計測システムの概要図と写真

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