プラズマバイオコンソーシアムの設立
大野 哲靖
基礎プラズマ研究の進展により、大気中で高密度低温プラズマ生成法が確立し、プラズマと生命体との相互作用研究が可能となりました。プラズマ照射が生命体の成長過程に大きな影響を与えることが発見され、応用分野への展開が期待されています。これまでもプラズマは分野横断型研究を推進するハブとなってきましたが、プラズマバイオコンソーシアムでは、プラズマ科学、基礎生物学・生理学、医学、農学分野の研究者を繋ぐ、新たな「プラズマバイオサイエンス」分野と研究コミュニティーの構築を目指しています。
プラズマバイオコンソーシアムは、名古屋大学、九州大学、自然科学研究機構で構成されています。名古屋大学では、プラズマナノ工学研究センター/プラズマ医療科学国際イノベーションセンターにおいて、主に動物系のプラズマバイオ研究を担当します。波長可変レーザーを用いた大気圧プラズマ中の電子や活性種の挙動の時空間分解計測やプラズマ照射した液体(プラズマ活性溶液)中の化学種の実時間計測を行い、それらを応用して、卵巣癌や胃癌などによる腹膜播種性転移の治療や眼科系疾患である加齢黄斑変性治療の研究を進めています。また、九州大学プラズマ界面工学センターでは、主に植物系プラズマバイオ研究を担当し、種子へのプラズマ照射による稲の成長促進効果などの研究を行います。一方、これらのプラズマが生物に及ぼす不思議な効果を実際の応用に発展させるためには、現象の基礎過程を細胞レベルで理解する必要があります。自然科学研究機構は宇宙、物質、エネルギー、生命の自然科学分野研究を担う5つの大学共同利用機関で構成されており、岡崎地区の基礎生物学研究所、生理学研究所では最先端のバイオ研究が行われています。自然科学研究機構の新分野創成センター内に設置されたプラズマバイオ分野において、分子生物学をベースとした動物系・植物系双方のプラズマバイオ基礎研究が行われます。
また、プラズマバイオコンソーシアムでは、他大学・他研究機関との共同研究も積極的に実施し、全国の研究者と連携して、分野の垣根を越えたプラズマバイオ研究を全日本体制で推進します。
平成30年6月1日に自然科学研究機構において協定書の署名式が行われ、井本敬二教授(自然科学研究機構・新分野創成センター長)を運営委員会議長とした、プラズマバイオコンソーシアムが発足いたしました。7月23日に名古屋大学東山キャンパスにて、松尾清一総長、佐々木裕之九州大学副学長、小森彰夫自然科学研究機構長の来席のもと、発足記念式典が開催されました。さらに9月14日には、九州大学伊都キャンパスにて第1回プラズマバイオコンソーシアムワークショップが開催され、堀勝教授(プラズマ医療科学国際イノベーションセンター長)、白谷正治教授(九州大学プラズマナノ界面工学センター長)、西谷基宏教授(自然科学研究機構生理学研究所)など、第一線の研究者による基調講演が行われました。
今後、プラズマバイオコンソーシアムにおけるプラズマ科学と生命科学の融合研究により、新しい学術分野の創成と安心安全な未来社会構築に貢献したいと考えております。皆様のご支援、ご協力をよろしくお願いします。